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吉田真悟

No.557 『二人の嘘』一雫(ひとしずく)ライオン著(2021/06/25 幻冬舎) 2021/09/24(3回目読了) 色々な感情をひきずりながら、もやもやしたところを調べつつ再読してみた。数年後の自分に向けて書き留めておく。(ネタバレあり!) やはりこれは、礼子の再生の物語なのだと改めて思う。同じ境遇の運命に翻弄された二人の純愛と捉えるよりは分かり合えた者同志がたまたま男と女だったのだと思える。「強い」は礼子が抱く蛭間への印象であり、真っ直ぐに運命を引き受けて赦すことを教えられ神に近づいた存在であるが、要所で選択を誤り最後には磔にされたキリストの如く、船の錨を抱いて入水してしまう。「つよい」は礼子の同僚の判事が礼子に抱く印象であるが、本能を失い無感情で人を冷酷に裁いてきた間違えられない礼子の虚勢の姿に見える。プロローグの片翼の堕ちる鳩は礼子そのものであり、裁判官という偽りの神の存在から、蛭間によって感情を呼び覚まされ、強い人間として堕ちながら再生する姿を暗示していると思う。 全編、裁判官の異常な生態が目につく。人に弱みを握られない様に必要以上に人と交わらず、ひっそりと質素な生活をし、3人ぐらいでお互いを監視させる職場。失敗は許されない。人が人を限られた時間で裁く理不尽さや矛盾を請け負う存在。だからこそ人為的な神なのだろう。弁護士や検事より気になる存在となってしまった。 以下もやもやしたところについて。 ・なぜ礼子は貴志の様な下らない男と結婚したのか?  >貧しく、「本能を失っていたから」 p160 ・なぜ蛭間は門前の人として礼子の前に現れたのか?  「苦しそうで悲しそうで、裁判所に向かって礼をしていた。」  >奈緒に会いに来ていた。そして礼子にも。 ・なぜ、凶器がディバイダーだったのか?  「本件の凶器がディバイダーであったこともおおきい。拳銃やナイフと違い、ディバイ ダーを使う行為が人を殺す意思によるものだと推認するのはやや不合理であると一般的 には思考される。」 p77 ・幼い子供の耳に熱湯を注ぎ込むというひどい虐待の事例はあるのか?  >探したが見つからなかった。その後3歳児の虐待死事件という小説を超えた痛ましい事件が発生してしまった。この子達の前には神も仏も存在しない。 ・蛭間奈緒はなぜ自殺したのか?  >不明。恋人に自分を忘れさせるため?兄に対する贖罪? ・タイトルの二人の嘘とは何か?  >礼子が蛭間の再審のために黙って裁判官を辞し政治家になると決心した事と蛭間が再審請求を申請したのに、礼子との北陸の旅のあとで入水する事かと思うが。 ・「家があると言ったではないか」の家は何を指すのだろうか?  >礼子にとっては母親とのたった一つの思い出であるパイン色の勉強机。最終的に母親の名前やその苦労を理解する重要な物となる。蛭間にとっては妹奈緒のいるところだったのではないだろうか?だから最後の最後につなぐ手を間違えたのであろう。 【登場人物】 片陵礼子(かたおかれいこ):旧姓、江田、東京地方裁判所判事、33歳 片陵貴志:礼子の夫、弁護士、40歳、自宅は荻窪、平成5年9月25日に母親から捨てられる。 貴志の母:75歳、元検察官 貴志の父:元裁判官 蛭間隆也:傷害致死罪で懲役4年に。10歳の時に母親が病死。父親不明。小学6年生の時に妹奈緒と別れて聖(セント)森林の里に入所する。 蛭間奈緒: 蛭間隆也の妹 斉木亨:奈緒と付き合っていたが結婚を親に反対される。 岸和田美沙:最高裁広報課付 内山瑛人:東京地裁刑事第十二部判事補 小森谷徹:同上の部長 雨野智巳:東京地方裁判所所長 長野判事:礼子の先輩判事 守沢瑠花:礼子の同期、毎朝新聞記者 香山季子:礼子の叔母、72歳、秩父在住 山路昭正:蛭間の弁護人 今張千草:児童養護施設、聖(セント)森林の里園長。蛭間が小学6年生から高校卒業までいた施設。 吉住秋生:時計工房「クロックバック」経営者、蛭間の雇い主 板野周平:吉住とつるんでいた 稲葉壮:自民党選挙対策副委員長 【登場する固有名詞(製品名等】 ランチパック、マイルドセブン、BMWi8、パテックフィリップ、横尾 和子(よこお かずこ、日本の厚生官僚。第26代社会保険庁長官、元最高裁判所判事(在任期間:2001年12月19日 - 2008年9月10日、日本で歴代2人目の女性最高裁判事)、LINE、ショートメール、140円のカップヌードル、ルイ・ヴィトン、カッシーナのソファー、シャトー・ラトゥール、インスタグラム、グッチのカシミアセーター、ポルシェ911、オウム真理教、石川公一、角川源義の庭園、奥多摩橋、ドアーズ『ジ・エンド』

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『二人の嘘』読後感想の部屋
トーク情報
  • 吉田真悟
    ひふみひふみ

    なぜこんなに[二人の嘘]に心奪われたのでしょうか。私はこの小説のラストに[風と共に去りぬ]をどこか重ねていていました。スカーレットが人生を前向きに決意するラストシーンです。「明日は明日の風が吹く」と訳される名台詞は、私にとって御守りの言葉です。

    感想を書くことは、己の内側と対峙し考えをまとめる作業で心の表現だと思います。とても苦しいです。ですが、本をていねいに読むようになりました。ストーリーを先行して読むだけでなく、細やかな描写を心にとめるようになりました。
    恩師に
    「文章を書くことは、恥をかくこと」
    と教わりました。根気よく習練を積むしかありません。何事もそうですね。

  • 吉田真悟
    akiaki

    大分遅れてしまいましたが、「二人の嘘」本日、読み終えました。

    読み終えたばかりで、まだうまく感想をかけませんが、もし、この物語を色に例えるなら、曇った空のブルーグレーのような、切なくて哀しくて、薄い靄のかかったような、でも、どこか優しくて温かい大人の清らかな純愛を描いた素晴らしい小説でした。

    「わたし、間違えるから。だから明日も一緒にいて下さい」

    礼子が金沢で、蛭間に言ったこのシーンがとても心に残りました。礼子が蛭間に対して、子供のように無垢に素直に感情を出したシーンでした。

    そして、この小説を読み終えた今、自分を犠牲にしてまで、命がけで守りたい人にこの先逢える確率は何%だろう。ふとそんなことを考えました。

    もしかしたら、そんな人にはもうこの先、一生出逢えないかもしれない。でも、1%の確率でも、礼子と蛭間のように、最後にジグソーパズルがカチっと嵌るように、必然的に出逢えることができたなら、どんなに幸せで、人生が濃いものになるでしょう。

    悲しい結末でも、きっと出逢えた奇跡に心から感謝するのではないかと思えるのです。

    そう思うと、憂鬱で、辛い事が沢山ある毎日でも、「まんざら悪くないなぁ」なんて思えるような気がするのです。

    見城さんが以前仰っていたように

    「命がけで人を愛する」

    この言葉の意味のスタートラインを「二人の嘘」を通して少し解ったような気がしました。

    そして読み終えた今は、明日から、すべての人に優しくなりたい自分がいるのでした。

    見城さん、人を心から愛することの素晴らしさを教えてくれた素晴らしい小説を出版して頂き本当にありがとうございました(^-^)

  • 吉田真悟
    削除されたユーザー削除されたユーザー

    二人の嘘の、第八章走る、が好きだ。

    「忘れ物したわ」と言って、蛭間の元に狂ったように走る礼子。
    「もう、離しませんから」と、蛭間の指先をつかむ礼子。
    そして結ばれる二人。
    「このままでいいじゃないですか」と、礼子の爪を研ぐ蛭間。

    全てが切なくて、愛おしくて、全力で二人を応援してしまう。

    本当に好きだと言える小説に出会えた。

  • 吉田真悟
    見城徹見城徹

    ↑ 僕の熱狂はもう一度[二人の嘘]に戻ります。
    演劇はその場限りで消えて行くものだけど、小説はいつまでも残ります。[幻冬舎PRESENTS扉座版二代目はクリスチャン]の千穐楽の舞台を全ての人に観てもらいたかった。あの感動、あの興奮、あの熱狂!同じことを[二人の嘘]に思います。全ての人に読んで欲しいです。

  • 吉田真悟
    吉田真悟

    二人の関係を「運命」という言葉で彩るとして、その魂は救いを求めていたのだろうか。
    出会ったときから始まる悲劇の中を堕ち続ける二人。読み終わった後の息苦しさにうろたえている。

    本能を失い間違えることを避け続けた「美しい」判事と、罪をかぶり赦されることを拒む元受刑者の男。
    強さとつよさ。
    共有することのない過去の苦しみと悲しみが重ねた二つの道。凍り付いた魂が溶けた瞬間のその一瞬の灯が心に焼き付いた。あぁ、そうか。二人は堕ちることで赦されたのか。いや、違う。女は共に堕ちることで救われて欲しかったのに、男は救われることを拒んだのだ。どこまでも孤独な心を抱えて女の心を満たすためだけに選んだ旅。
    氷のように冷たい手は、重ねたときだけ熱を持ったのだろう。
    超越した頭脳と美しさという鎧をまとい、心を殺して生きていた女と、光を避けそれでも俯かず生きてきた男の、これが必然の終焉。


    【書店員レビュー(ひさだかおり)】『二人の嘘』(一雫 ライオン) https://readee.rakuten.co.jp/bookstore-clerk-review/5431077