十六夜のトーク
トーク情報十六夜 田島芽瑠田島芽瑠 私は今日、中学校を卒業した。
卒業式も終わり、みんなバラバラに時間を過ごしている。
だけど、心は通じあってる気がした。
みんな、なんとなく名残惜しくてここに残ってるんだって。
私は、教室に入り、お世話になった席に腰掛ける。
ふわっと、桜が風に舞うように、思い出が頭に流れてくる。
今じゃ、クスッと笑ってしまうような些細な喧嘩もあの頃は本気で語り合っていた。
何度もぶつかり、その度に強くなった絆。
きっとこれから先も、続いていく気がする。
ここは、私の未来に素敵な物をプレゼントしてくれた。
私は、この3年間で何かを残す事は出来たのだろうか…。
そんな事を考えながら、少しヒヤッとする机に頬をくっつける。
そして、私はゆっくりと目を閉じた。
「おい、みく!」自分の名前を呼ぶ声がして、ハッと目が覚めた。
見上げたら、矢吹くんがいた。
窓からの光のせいか、矢吹くんがとても眩しく感じた。
「あぁ〜。俺ら、本当に卒業しちゃったんだな」と伸びをしながら言う矢吹くんが、なんだか可笑しくて、私は笑ってしまった。
矢吹くんは、そんな私を見て何故かニコニコしていた。
「じゃ、元気でな」
矢吹くんが、私の目を見ながら言った。
気がついたら、校門の前に着いていた。
近くで、桜の木が風に吹かれさわさわしている。
「うん」
私は急に、何も言えなくなってしまう。
矢吹くんは、ニッと笑って背中を向けた。
一歩、二歩…遠くなっていく。
「待って!」私は、矢吹くんの手を掴んでいた。
驚いた顔をしている矢吹くんに私は言った。
「また、会えるかな?」
当たり前だろと矢吹くんは笑った。
そして、行ってしまった。
「また、ね」春の風に乗って、届けばいいのに。
私は、微妙な笑みを浮かべて上を見上げた。
いい天気だから、余計に切なく感じた。
くるっと振り返ったら、大きな桜の木が目に入る。
ヒラヒラ、桜は散っていく。
入学式の時より、少し桜に近づけた気がした。
私の目の前に、桜がゆらゆらと現れる。
そっと、桜をキャッチした。
私は、フッと桜に息を吹きかけた。
想いを、ギュッと閉じ込めて。
静かに溢れ落ちた秘密は、少ししょっぱい味がした。