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#金杯

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  1. #タマモクロス
  2. #京都競馬場
  1. ホワイト

    JRAの年度最初の重賞といえば、いつからかは知らないけれど、東西の金杯と決まっている。
    私が初めて競馬場へ行き、観戦した日のメインレースが、1988年の京都競馬場で行われた、2000メートルのハンデ戦、金杯だった。

    初心者でも一丁前に、パドックで馬体を検分しようと目論む。
    競馬ブックの横馬柱を睨みながら、京都競馬場特有の真ん丸なパドックを歩くサラブレッドたちを見る。
    さすがは重賞。
    どの馬も冬の寒風の中、キラキラの馬体で、厩務員に引かれながら、コツコツと蹄音を響かせ、力強く歩いていた、一頭以外は。

    項垂れて、オドオドとした定まらない視線を、落とし、上げたかと思えばまた落として、トボトボと歩いている、お正月の陽射しに映えもしないグレーの馬体。
    7枠13番の、タマモクロス。

    大学時代の彼女たちに悉く捨てられそうで、やさぐれていた私は、淋しげに歩くその馬に、自分の姿が重なるようで、なんだか応援したくなった。
    着て行ったダッフルコートもグレーだったし、履いていたウエスタンブーツも、見ようによっては枠番のオレンジに見えなくもないという、全くのこじつけの運命観。笑
    なにより、ゼッケンの13番がいい。
    キリスト忌日からかなにかの、不吉な番号。
    ツイてない私にはぴったりだ。

    競馬ブックを見てみると、なんと一番人気。
    あんなに、覇気も元気もない馬が?
    前走、前々走を圧勝しているらしい。
    疑心暗鬼ながらも、もはや心はタマモクロスと同体となった私は、やはり←電車賃も残さずに、有り金の全てを、単勝馬券に叩き込んだ。
    オケラになったら、前に知り合った人妻にでも、車で迎えに来てもらおうかしら。

    馬場側の手摺を手袋で磨きながら、返し馬を見る。
    南井克己騎手を背に、タマモクロスが入って来た。
    所謂スイッチが入るとは、正にこのことか。
    パドックとは裏腹に、跳ねるようにキャンターを刻む、芦毛の細身の馬体。
    陽光にキラキラと、眩いばかりの光の粒子だかオーラだかが感じられた。
    買って間違いなかった。
    吸っていたハイライトも、美味くなってきた。
    他馬に比べても、明らかに抜群の動きだった。
    そしてレースが始まる。

    「殿」
    この字を見て、すぐに「しんがり」と読んでしまえたアナタは、立派な馬券バカ。
    そう、一番好きなの期待と、私の有り金を背負ったタマモクロスは、ドンケツ(一番後ろ)の殿でレースを進めていた。
    完歩も他馬より短い、首も高い、なにより元気がない。
    返し馬はなんだったのか。
    またパドックのお前に逆戻りか。
    3コーナーでは、故障かなにかで遅れた一頭を除く15頭の馬群の、殿でユルユルと京都名物の下り坂を下って来る。

    のちに知る、杉本清さんの名言「京都の3コーナーから4コーナーの坂は、ゆっくりと登って、ゆっくりと降りなければなりません」なんて知る由もない初心者は、もはや絶望感に苛まれ、膝に力が入らない。
    手摺からも、虚しく手が滑り落ちた。
    視線まで落ちそうになったその時、音が聞こえた。

    馬群が直線に入り、タマモクロスも向いた刹那。その音が聞こえた。
    聞こえた気がしただけかもしれない。
    私にはハッキリと聞こえたのだ。
    「ゴッ!」
    タマモクロスの蹄音だ。

    直線を向くや、芝の大地をしっかりと捉えた芦毛のギャロップは、レースドッグのグレイハウンドの全力疾走のように、馬体を低く低く、完歩は長く、回転は速く、まさに怒涛の末脚で、馬群を弾き飛ばしながら、内から14頭をまとめて撫で切ってしまった。
    気がつけば、手摺が凹まんがばかりに握りしめていた私。
    有り金は、ほぼ倍になったんです。
    ありがとう、タマモクロス。
    ありがとう、競馬。

    馬券バカ、一丁上がり。笑



    ( 。・_・。 ) 🏇

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