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見城徹

さっきまで吉本隆明[言語にとって美とはなにか]をパラパラと読み返していて、不意に吉本さんから、 「僕の作品を一番解っているのは見城さんだよ」 と言われたことを思い出した。幻冬舎を作って2年後ぐらいの時だったと思う。その時はただただ感激したが、正直何でそんなことを言ってくれるのだろうと不思議にも思った。他ならぬ吉本隆明その人が言っているのである。僕の部下の石原正康は吉本ばななさんと結婚生活を送っていたこともあって吉本隆明さんと話す機会はあったが、僕はそれまでそんなに話す機会はなかった。中上健次がいる和歌山県新宮市に吉本さんを僕がお連れした時があった。長く話したのはその時ぐらいだ。その後、僕が書いた原稿用紙80枚ぐらいの拙い吉本隆明論[自我の自立と思想の非立]を畏れ多くもお送りしたことはあったが、感想は何も言われなかった。読んでくれたかさえ解らない。手紙は4、5回は出したと思う。それらのことが関係しているかどうかは解らないが、大変に光栄なことを言われてその日は眠れなかった。[言語にとって美とはなにか]の「あとがき」にある編集者への謝辞は印象的である。吉本隆明がいかに正直で誠実で繊細で堅牢な人であったかがよく解る。とにかく僕は吉本さんの作品に励まされ、ほぼ毎朝、原稿用紙に向かっている。いつ完成するのだろう?原稿は書いては破る繰り返しである。

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