[読書という荒野]に書き忘れたものがもう一つある。フランスの作家ポール・ニザンと哲学者シモーヌ・ヴェイユである。ポール・ニザンは[アデンアラビア]という小説の最初に次のように書く。
「僕は二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい」
シモーヌ・ヴェイユは次のような言葉を残している。
「わたしたちは架空の楽園よりも、現実の地獄を選ばなければなりません」
2人とも同時代を戦いに生きた。シモーヌ・ヴェイユは34歳で食事を拒否、自ら命を絶ち、ポール・ニザンは35歳で戦場に散った。苛烈な人生だった。2人の言葉は意図せず見事に共鳴している。