#沢木耕太郎
『春に散る』沢木耕太郎 著 (2016)
上巻と下巻で、まるで趣の違う物語でした。
夢に向かっていた若者が、理不尽と出会い蹉跌。ハワイからアメリカへと渡り一応の成功を納めた老年の頃、宿痾の病とわかり、慕情なのか郷愁なのか、財産を精算して日本へと帰ります。昔の仲間を訪ね歩く旅情溢れる文章は、さすがは沢木耕太郎さん、と唸ります。三人の落ちぶれた昔の仲間を集め、共同生活を始めるまでが、上巻の概ねかと。広岡が、人生を巻き戻すかのような「逆転」の話。
下巻は、おそらく映画ではメインテーマとなっているボクシングの物語なので、詳細は伏せますが、ボクシングファンならずとも熱くなるエピソードと連なりの数々に酔いしれることでしょう。広岡が翔吾に教える最後の技は、ボクシングファンならば、誰でもが知っている、悪魔に魂を売って手に入れる呪いかの如き、あの有名な「逆転」技です。
通底しているのは、理不尽に抗い、もがいた末に見出す、自ら描く人生の場面場面のファイナリー。それを掴み取るための「逆転」だと感じました。
挿絵の中田春彌さんの、静止画の如き画風も魅力です。
御一読あれ。
( 。・_・。 ) 🥊
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