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あきばん★にゅ✦β✦˖°。

①忘れられた路地裏。摩天楼の陰に 光も届かない。場末の酒場、ここが俺のステージ。昼間の仕事で指はボロボロ。それでも俺は今日を歌う。夢に裏切られ夢を諦めた奴らが集まり酒を酌み交わす。喧嘩っ早いが俺が鍵盤を弾くと黙って耳を傾ける、馴染みの連中さ。 ②絡み酒のトニーが今夜も同じ事を聞いてくる“お前の歌は下手くそだ。だけどピアノには艶がある。聴かせたい女でもいるのかい?”俺は決まってこう答える”そんなのいないさ。俺はここに居るあんた達の為に弾いている。それだけさ”トニーは鼻をすすりご機嫌で帰る。一番安い酒も飲めないチップを俺の胸元に突っ込んで。 ③この金は一日中煤だらけになって稼いだものだ。ここには毎日を一所懸命に生きる人間しか居ない。酒をくらい暴れても、俺の演奏を聴きに来る連中のために歌う。悪くない人生だと思っている。店を出る頃には雨は色を変え、路地の石畳を白く覆っていた。レッドカーペットは歩けなかったが今の俺には最高の絨毯さ。 ④誰も通らない忘れられた路地裏を揚々と歩き出す。足跡を白い絨毯に刻みながら。早く帰って眠ろう。昼には起きて街を走る動脈の交通整理が待っている...おっと俺より先に歩いた奴が居る。これはきっと野良猫のノーベルだ。だって西のハイウェイに向かってまっすぐに足跡が伸びているじゃないか。

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