『二人の嘘』 読了しました。久しぶりに暫くの時間、感情をグラグラと揺さぶられた作品でした。 蛭間と出逢ったことで 灰色で無味無臭だった礼子の世界が 匂い立ち、色付き、彩られていく。 感情が蘇り、感じ、本能を取り戻していく様に都度自然と涙が溢れてきました。 地下鉄の湿気の匂い、雨の匂い、金木犀の香、木造アパート、目黒川沿いのあの匂い、フラッシュバックする紫煙の香り。。 繊細過ぎる描写により、頭の中で様々な情景と匂いが物凄くリアルに駆け巡りました。 飛び抜けた美貌と誰も妬むことすらできない卓越した能力、そして何不自由のない暮らしを手に入れていたとしても 周囲から見える幸せが、幸せとは限らない。 幼少期の経験による防衛本能から 感情を持つことはすべてを狂わせると 希薄で私知に惑わされず本能を捨てていたのに。 人目を気にしカシミアのブランドコートや大きな家を与えてくれる男より、 唯一の醜い部分である親指の爪に気付き愛でてくれる男に惹かれた 理性でなく、本能で 長さでなく、深さで 一貫して大事な人だけを想い、行動した蛭間は漢過ぎて。途中からなんとなく結末が想像出来てしまい後半戦はずっと苦しかった。 家はあると言ったではないか 物質的なものは自己顕示と人生においての安心材料でしかないのかもない。 神の言う家こそが、本質的な安息や幸せなのかな。 悲劇的な結末でしたが 身体に、細胞に、蛭間が根付いてしまった。という体感と、 全てを捨ててもいいという感情を知れた礼子は女として幸せだったとも思う。　　 ただ、好きな男に1ミリでいいから幸せになって欲しいと願う。これこそ愛だなと。 素晴らしい小説でした。 見城さん、素敵な本をご紹介頂きありがとうございました。