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水谷健吾
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『足がシビれた』でお願いします( ᐛ)

足がしびれる 坊主の間延びしたお経が部屋に響く。 目の前には長年連れ添った婆さんの写真が飾られていた。 ばあさんが死んだのは昨日だ。歳も歳だし「まさか」というより「ついに」という感覚のが強い。 生前はくたばっちまえなんて思っていたもんだが、いざ目の当たりにするとあっけないもんだ。 坊主の前で俺は正座をしている。隣には息子とその嫁。後ろには可愛い孫たちだ。 10分後。足が痺れてきた。坊主の話は終わりそうもない。 足の痺れというのは神経の異常電流らしい。こんな老いぼれはとうの昔に体の感覚などなくなっているものだと思っていたが。 その辺の神経はしっかりしているとうことか。 よくよく考えれば正座なんてしばらくしていない。立ち上がってしまっても良いのだが何しろ妻の葬儀だ。 しかるべき姿で最後まで見届けるのが夫の義務ってもんだろう。 さらに10分後。 長い長いお経が終わり、ちょっとした休憩になった。 俺は慎重に立ち上がる。既に足は、痺れでなく感覚がなくなっていた。ゆっくり足をマッサージし、膝を立ててみたが次の瞬間なんとも言えない痛みで俺はその場に倒れこんでしまう。 「なにやってんだい」 後ろから呆れたような声がした。懐かしいあの声だ。 「中々こっちに来ないお前を待ってやっていたのその言い方はなんだ。」 俺は思わず憎まれ口を叩く。視線の先には婆さんが立っている。 薄く半透明なその姿の横で俺たちの息子が泣いていた。 「お袋もようやく親父のもとに行けて喜んでいると思います。」

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  • 水谷健吾
    水谷健吾
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    ふぁらお ファラオじゃなくてふぁらお

    8月終わりのある日、精神科の扉を一人の母親が叩いた。
    「どうなさいました?」
    恰幅の良い精神科医が答える。
    「実はうちの息子のことなんですけど。」
    母親の隣には少年がいる。あどけない表情だ。医師を見ると嬉しそうに指をさした。
    「ふぁらお!」
    母親が慌ててそれをたしなめる。
    「ふぁらお、とは?」
    「それが今回、伺った理由です。最近、うちの子が少し変で」
    医師は意に介した様子もなく笑う。
    「よくあることです。子供の成長というのは恐るべき早さですからな。朝起きてみたら別人のように感じるなんてのはざらですよ。」
    「そうかもしれませんが、ちょっと今回は特別といいますか。」
    「わかります。自分の子供を特別だと思いたいというのはあなただけではありません。親として生きている以上、当たり前のことです。どれ話してごらんなさい。」
    医師に促され母親はカバンから一冊の本を出す。絵日記だ。
    「息子のものです。」
    それを受け取ると医師はペラペラとめくった。

    一見すると、何てことのない絵日記だ。どこどこに行ったとか、誰々と遊んだとか。
    拙い絵とちぐはぐな日本語で日々の出来事を綴っている。

    「ん?」
    絵日記も後半に差し掛かったところで医師は手を止めた。
    「これは?」
    描かれている絵を指すと母親の顔が曇る。

    三角の茶色の顔に一つの目。そして体は子供のそれだ。文章を見ると
    「きょう、ふぁらおとあそんだ。」
    とある。

    それ以降の絵日記に「ふぁらお」は度々、出てきていた。
    「ふぁらおというのは、ファラオでしょうか?あのエジピトの王の。」
    「おそらくそうだと。でもいったいそれがなんなのか見当もつきません。」
    「ははん。」
    医師は一つの結論に至る。
    「心配いりません。よくあることです。空想の友達を自分の中で作ってしまう。子供の得意技ですよ。」
    「本当にそうなのですか?どうもリアリティーがあって不気味なんです。」
    「ええ。心配ないです。時間とともに消えていくでしょう。もし心配なら、簡単な催眠療法で彼の妄想を取り除くことも可能ですが。」
    「ぜ、ぜひお願いします!」
    「この絵日記はあなたにとっても気味が悪いでしょう。こちらで処分しておきますよ。」

    親子を見送った後、医師はポツリを言う。

    「まさか我々の変装を見破るものがいるとはな。あの子供の近くに住む仲間にも気をつけるように伝えておかなければ。」

  • 水谷健吾
    水谷健吾
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    サッカーボール

    F星人の皮膚や骨は非常に柔らかい。容易に自分の体を変形できるため天敵から逃れてきた。

    しかしそれは裏を返せば外部からの攻撃に弱いということ。ちょっとした衝撃でもF星人は死んでしまう。

    そんなF星人の性格は非常に穏やかで戦いを好まない。彼らが地球にやってきたのも友好関係を結ぶためだ。

    「どうやって地球人とコンタクトを取るべきだろうか」
    一人のF星人は言う。
    「地球人に変身してしまうのはどうだろう」
    「しかしそれだと我々が宇宙人であることを信じてもらえない。ただの妄想だと笑われるのがオチだ。」

    一度、姿を変えると元に戻すのに多少の時間がかかるのだ。

    「だが、ありのままの格好で出てみろ。大騒ぎだ。下手したら我々が殺されかねない。」

    地球人は未だ宇宙人に免疫がない。パニックになるのは目に見えていた。

    「地球人が好意を抱いている物に変身したらどうだろう。彼らの好きな物なのだから敵意はないだろうし、その姿のまま彼らに話しかければ我々の存在を立証できるはずだ。」
    「なるほど。それはやってみる価値はあるかもしれないな。」

    F星人は地球人の中でもとびきり礼儀正しいとされている種族を見つけた。

    その中でも多くの地球人に人気があり、純粋無垢でまっすぐな若い1人の地球人をターゲットにすると、徹底的に彼が好む物を調査した。

    「”これ”はどうだろう?あの地球人が言うには、”これ”は地球人と友好関係を結んでいるようだが。」

    彼らは地球に忍び込ませた偵察カメラの映像を見ながら言う。
    「いいかもしれない。よし!早速、変身しよう」

    F星人は変身をし、他の”それ”がたくさん置いてあり、なおかつ多くの地球人がいる場所へと現れることにした。


    緑色の芝生の上。F星人は地球人と向かい合っている。


    あのサッカー少年が”友達”と言っていた”サッカーボール”に姿を変えて。

  • 水谷健吾
    水谷健吾
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    『足がシビれた』でお願いします( ᐛ)

    足がしびれる


    坊主の間延びしたお経が部屋に響く。
    目の前には長年連れ添った婆さんの写真が飾られていた。

    ばあさんが死んだのは昨日だ。歳も歳だし「まさか」というより「ついに」という感覚のが強い。
    生前はくたばっちまえなんて思っていたもんだが、いざ目の当たりにするとあっけないもんだ。

    坊主の前で俺は正座をしている。隣には息子とその嫁。後ろには可愛い孫たちだ。

    10分後。足が痺れてきた。坊主の話は終わりそうもない。
    足の痺れというのは神経の異常電流らしい。こんな老いぼれはとうの昔に体の感覚などなくなっているものだと思っていたが。
    その辺の神経はしっかりしているとうことか。

    よくよく考えれば正座なんてしばらくしていない。立ち上がってしまっても良いのだが何しろ妻の葬儀だ。
    しかるべき姿で最後まで見届けるのが夫の義務ってもんだろう。

    さらに10分後。
    長い長いお経が終わり、ちょっとした休憩になった。
    俺は慎重に立ち上がる。既に足は、痺れでなく感覚がなくなっていた。ゆっくり足をマッサージし、膝を立ててみたが次の瞬間なんとも言えない痛みで俺はその場に倒れこんでしまう。

    「なにやってんだい」
    後ろから呆れたような声がした。懐かしいあの声だ。
    「中々こっちに来ないお前を待ってやっていたのその言い方はなんだ。」
    俺は思わず憎まれ口を叩く。視線の先には婆さんが立っている。

    薄く半透明なその姿の横で俺たちの息子が泣いていた。
    「お袋もようやく親父のもとに行けて喜んでいると思います。」

  • 水谷健吾
    水谷健吾
    なんちゃって菩薩
    『現実逃避』でお願いします🙇

    現実逃避の薬

    仕事もプライベートも上手くいっていない男がいた。
    「あぁ。もうだめだ。」
    男はそうつぶやくと精神科の門を叩く。

    中からは青白い顔をした医者が現れる。爬虫類のような男で久本と言った。
    「どうされましたか?」
    久本医師が尋ねる。
    「実は最近、会社もプライベートも嫌なことだらけで辛いのです。」
    「それは大変ですね。」
    大変と思っていないような口調で久本医師はいう

    「ここは普通の病院では扱っていないような薬を出してくれると聞きました。現実逃避ができる薬をもらえませんか?」
    久本は黙ったまま席を立つと錠剤の入った瓶を差し出した。

    「明晰夢というのもご存知でしょうか?自分の思い通りに書き換えられる夢のことです。訓練次第では誰でも出来るのですが、この薬は強制的に好きな夢を見ることができます。」

    男は喜んでその薬を購入した。早速その日の晩、1錠飲んでみる。

    充実した仕事と誰もが羨む最高の彼女。夢の中で男は大金持ちであり誰からも尊敬されていた。

    目覚めてからも どちらが現実か分からなくなり、しばらく呆然としたほどだ。
    「素晴らしい夢だった。」
    それから男の楽しみは寝ることであり、夢の中の世界が安息の地だった。

    なにせ自分の思い通りなのだ。嫌な奴も辛い仕事もまるでない。まさに天国である。


    そんなある日。仕事のミスが重なり男は上司からきつい説教を受けた。

    最悪の気分で家に帰ると、この世の全てが嫌になり、衝動で残りの薬を全て飲んでしまった。
    数秒後、男はその場に倒れ、二度と目がさめることがなくなった。

    しかし夢の中では男は生きている。
    最高の友人。最高の彼女。最高の仕事。最高の環境。
    男はそんな至福の世界を堪能していた。

    だが、”最高”とはすなわち”最も良いこと”であり、つまりは”悪いこと”があるからこそ感じられるものである。

    次第に男は”最高”しかないこの世界に飽き始めた。

    少しだけ夢をいじり、彼女と喧嘩してみる。

    すると仲直りした時の喜びはひとしおであり、以前よりも彼女のことが好きになったのだ。
    これは他の部分にも言えた。悪いことがあるからこそ、良い時が際立つ。


    そう。最高の喜びを得るためには、不幸のどん底に落ちるべきなのだ。男はそう考えると、自分をとことん追い込むことにした。

    夢を操作できることなど忘れさせ、最高の彼女も最高の仕事も自ら手放す。

    辛くて死にたくなるくらいまで落ち込んでから味わう幸せ。きっとそれは格別なものに違いないと確信していた。



    それからしばらくして。

    男は仕事もプライベートも上手くいかない生活を送るようなっていた。
    「あぁ。もうだめだ。」

    男はそうつぶやくと精神科の門を叩く。

  • 水谷健吾
    水谷健吾
    通りすがりのオオカミ
    生まれ変わりでお願いします。よろしくお願いします。

    生まれ変わりまであと…

    「さぁ、やってきたな。ここは冥界。生と死を隔てるところ。私はその番人だ。」
    大柄の男が説明した。
    「冥界ですって?なんということだ。ということは私は死んでしまったのか。」
    男は慌てる。
    「いかにもその通り。始まりがあれば終わりがあるもの。それは人生も同じだ。」
    「しかしあまりにも唐突です。私はこれからどうなってしまうのでしょう。」
    「お前の肉体は消え魂だけとなる。いずれ生まれ変わることになるが、それまではここで待つことになるだろう。」
    「それを聞いて安心しました。やりたいこともやり残したこともたくさんある。待つのはどれくらいの期間でしょうか?」
    「君は日本人のようだな。」
    番人は分厚い本をペラペラとめくった。
    「そうなるとざっと120年といったところか。」
    「それはひどい。どうにかなりませんか?」
    「残念ながらそうはいかない。」
    「あんまりだ。120年も待つなんて。狂ってしまいそうだ。生き返りの方法などはないのですか?」
    「そんなものは存在しない。」
    「嫌だ嫌だ。そんなに待てるわけありません。」
    「ワガママを言うな。皆、そうなんだ。」
    「皆だって?どういうことです?」
    「順番なのだ。君の前には何億という人が待っている。」
    「皆さんそうやって順番を待っているということでしょうか?」
    「そうなるな。」
    「そうですか。それはしょうがないですね。」
    男は大人しく番人に従い、やがて魂へと変わった。

    一連の作業をした後、番人はボソリという。

    「全く日本人って奴は、皆がやっているというだけで急に素直になるものだ。行列に並ぶこと自体を好むというがあながち嘘じゃないかもな。」

  • 水谷健吾
    水谷健吾
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    余命宣告・・・ 悲しい話しでよろしくお願いいたしますm(_ _)m

    余命宣告

    「よくできたもんだ。」
    相川がベットの上で言った。声は擦れ、か細い手足は震えている。老い以上に死を感じさせた。
    「だろ?うちの最高傑作だ。」
    久本が言う。隣にはアンドロイドが立っており、その姿は相川と瓜二つだ。
    「これでウチの女房を悲しませなくて済む。」
    「家事、洗濯、掃除。あらかたのことはできる。活動時間はメンテナンスにもよるが大体10年ほどだ。」
    「10年経つとどうなる?」
    「あちこちと不具合が生じ、修理が必要になる。首筋に製造番号があるから、故障した時はこの番号を伝えれば良い。 」
    そうかそうかと相川は嬉しそうに笑った。これで安心だと窓の外を眺める。
    「長い間、二人っきりだったからな。夫の死を受け入れられずボケてしまうってのはよくあるらしいじゃないか。」
    「断定はできないが。」
    「傾向はあるんだ。来年の秋はここに旅行しようだなんて話し出す。」
    「お前を元気づけようとしているんじゃないのか?」
    「そうかもしれない。ただ、とにかく心配なんだ。」
    久本はそうか、と小さく頷く。口を挟むべき問題ではない。
    「もし、ボケなかったら家政婦として使ってもらえれば良いしな。」
    相川は目を細めた。
    余命宣告されて日が近づいていた。すでに本人に覚悟はできているようだが、彼が憂うのはいつも妻のことだった。
    「あいつには余生を安らかに過ごして欲しいんだ。」
    久本の去り際、相川はポツリと言う。

    相川がこの世を去ったのはそれから数ヶ月後のことだ。
    約束通り、久本は相川の妻にアンドロイドを届ける。試運転も兼ねて家を訪れた。
    「久本さん。お久しぶり。あら。ウチの旦那を連れて帰ってくれたの? 」
    まるで入院していた事実すら忘れてかのように妻は振舞っている。
    アンドロイドは「ただいま」と声を出すと相川本人のように家の中にそそくさを進み、ソファーでくつろぎだした。設計通りである。
    「久本さんもどうぞ。」
    妻の勧めで久本はアンドロイドの隣に座る。特に問題はないようだ。
    問題があるとすれば、久本は目の前の女性を見た。

    彼女の願い通り、相川自身は安らかに過ごせただろうか。そんなことを思う。
    どちらにせよそろそろ10年経つ。相川の話から、記憶装置の動作が悪いようではあるが。
    「いつもすいませんね。主人が。」
    目の前のソレがお茶をテーブルに置く。人間のような動作そのものだ。
    首筋には製造番号が見えた。

  • 水谷健吾
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    睡魔 でおねげーします!!!

    睡魔と睡使

    男は一息ついた。ふと疲労感が体を巡り瞼が重くなる。
    「寝てしまえよ。」
    背後からそんな声が聞こえた。卑しくて矮小な声。それは自分の内側から聞こえているようだった。
    「誰だ。」
    男は鋭い口調で話しかける。
    「俺は睡魔さ。睡眠の悪魔。寝ちゃえよ。眠いんだろ?」
    「ダメよ。」
    またしても声が聞こえる。女性の清らかな声だ。
    「誰だ?」
    男は再び訪ねた。
    「睡眠の天使。睡使よ。寝てはダメ。寝るということは怠けること。それでは自分に負けたことになるわ。」
    睡使の言葉に睡魔が反発する。
    「何を言っているんだ。眠いから寝る。あたりまえだ。そんなに毎回頑張っていられるか。」
    「大丈夫。あなたならやれる。寝てはダメよ。ほら、もうちょっと頑張って。」
    睡使が励ました。
    「確かに寝てはダメだ。もう少しやってみるか。」




    「昨夜は眠れましたか?」
    看護婦が尋ねる。病室のベットに座る男の体は痩せ細り目は充血していた。
    焦点は定まっていない。
    ブツブツと
    「寝てはダメだ。寝てはダメだ。」と繰り返している。

  • 水谷健吾
    水谷健吾
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    搾りたて生醤油で

    搾り立て生醤油

    調味料の専門店があった。私は調味料を追求せし者。
    素晴らしい料理とはすべからく調味料で成り立つ。
    決して表に出ることなく、そっと素材を引き立てせる。なんとも粋な存在ではないか。
    そんな私がこの調味料専門店に来たのは必然と言えるであろう。
    中でも注目すべきはこの「搾り立て生醤油」
    醤油。穀物を発酵させた液体がこれほどまでに万物を際立たせるとは誰が想像しただろうか。
    否、できないはずだ。偶然が生んだ奇跡の産物。理論では推し量ることのできない領域であろう。
    そんな御託を並べながらも私はこの店で食事を頼むことにした。
    商品を陳列するだけでなく、”実”を楽しめるのがこの店の魅力の一つだから。
    運ばれてきたのは、そう!目玉焼き。
    醤油との相性で言えば右に出る者はいない。
    私は早速、買ったばかりの「搾り立て生醤油」をかける。
    匂いをが素晴らしい。卵の本来持つポテンシャルを解き放ち、見た目も色鮮やかにする。
    「いただきます。」
    あらゆる食材に感謝し、私は口の中に目玉焼きを入れた。途端、口の中に何ともいえない風味が広がりだした。
    「あぁー!」
    私は思わず声を上げる。


    ソースだこれ。

  • 水谷健吾
    水谷健吾
    🙃
    北京ダックでお願いします

    「やぁ、山梨人間。」
    「やぁ、東京人間」
    二人の男が向かい合う
    「ついに君と僕の二人だけだね。」
    「そうだね、東京人間。涼しくなってきた。世間でいうと11月に入ったところか。」
    「北海道人間が言っていたけど、向こうではもう雪が降り始めているらしい。」
    「そうか。彼が二度と故郷の雪を見ることができないのが残念だ」
    「どうする?」
    「それはもう決めたことだろ?東京人間。君が勝ったんだ。」
    二人はそこでしばし黙る。
    「なぁ。」
    「なんだい。山梨人間。」
    「なんで俺たちはこういう風に呼び合うようになったんだろうな。」
    あぁ。ため息をつくように片方が男が言った。
    「きっと。現実から目を背けたくなったんだよ。北京ダックとかの例さ。」
    「北京ダック・・」
    「北京のアヒル。生息地の種の名前を組み合わせるっていうのは、自分とは違う種族だと自らの言い聞かせるようなもんなのかもな。」
    あぁ。今度は納得するようにもう片方がいう。
    「そうじゃなきゃ、やってられないよな。」
    片方の人間が地面に置いているノコギリを拾う
    「君だけでも救助されると良いんだけど。」
    そう言うとノコギリをもう片方の男に手渡した。

  • 水谷健吾
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    告白. でお願いできますか?

    告白

    その日の授業は教育委員会のお偉いさんが見にくる日だった。
    教壇の上に立つ担任教師は神妙な顔をして話しだす。
    「実は今日、皆さんに告白があります。これは本来、上から口止めされていた話です。しかしながらこの学校の不正をこれ以上見過ごせない。そう考え、私は皆さんに全てを打ち明けます。」
    「先生・・・」
    一人の生徒が心配そうに口を挟む。
    「質問は最後に受け付けます。」
    そう言うと担任教師はすぐに話し始めた。この学校が抱えている闇についてひとしきり説明をし、いよいよ「その責任は誰にあるのか?」「誰が主導でおこなおうとしているのか?」という話になった時、タイミングよくチャイムが鳴った。
    「では、続きは休憩が終わったらにしましょう。」
    10分後、教壇に教師が立ち話を始める。
    「先生。」
    先ほどの生徒が手を挙げた。
    「質問は後だ。さて皆に伝えなければならないことがある。さっきの話だが実は全部デタラメなんだ。ちょっと驚かせようとしただけさ。間違っても誰にも話しちゃいけないよ。」
    教師は笑顔でそう言った。
    「じゃあ、質問はあるか?」
    「はい。」
    先ほどから口を挟んでいた生徒が立ち上がる。
    「2つ質問があります。」
    「言ってみなさい。」
    「なぜチャイムが20分も早く鳴ったのでしょう?」
    「今日は偉い人たちが来ているからね。いつもとは違うのさ。2つ目は?」

    「休憩前まで話していた私たちの担任の先生はどこにいってしまったのですか?」