この一節を語ろう 第20回 どんな言葉で叫んでも 街のノイズに消されて はっきりとは聞こえないし それじゃ想いは伝わらない 「Gonna Jump」SKE48 作詞:秋元康 楽曲は一つのベクトルにではなく、いろいろな角度からさまざまな人びとへ作用するのが面白い。それは朝に東から今日の始まりを告げる太陽が、夕方には西から色を変えて街を染めるのに似ている。 例えば「僕の太陽」という曲は、大好きな人が太陽のように自分の人生を輝きに満たすという解釈もあれば、もしかしたらこんな自分でも誰かの生きるエネルギーになれるのではないか、誰かの太陽になれるのではないかという受けとめかたも出来る。 今回取り上げた「Gonna Jump」は”私のために全力でジャンプして”という、総選挙を擁するAKBグループの曲として見れば、ヲタ煽りとも見て取れるなかなかに痛快な曲である。これはこの曲のセンターであり、当時まさに売り出し中であったSKE若手のホープ後藤楽々について”この子を頼むぜ”という意味合いもあったのかも知れない。 さて、この曲「Gonna Jump」は、チームSの現行公演である「重ねた足跡」のオープニングナンバーとして劇場で披露されている。たしかにヘビーなギターリフから始まるストレートアヘッドな展開には胸の高まりを抑えずにはいられない。しかし、今この曲をチームS公演で聴くと、私にはヲタ煽りとはまた違うメッセージが聞こえてくるのだ、 ”チームS問題”。SKE48のフラグシップチームであるチームSに卒業が相次いだことにより、SKE内の他の２チームと比較してSが戦力的に劣る状況となり、チームの行く末が心配だというファンや関係者の声がいつの間にかこう呼ばれるようになった。 これは単にチームSの弱体化を心配しているというよりは、それだけチームSというチームに最強という二文字が求められているということが活字になったとも言える。 先日後藤理沙子の劇場最終公演が行われ、大矢真那とともにベテランとしてチームを支えた理沙子が抜けることとなり、まさに今、本格的に若いチームが始動することとなる訳だが、「Gonna Jump」の歌詞はそんなチームSに檄を飛ばしているように思えないだろうか。 さあもしも本気なら 命懸けジャンプして！ もっと大胆にアピールしてよ 驚くくらいLove me do! チームS、特に若いメンバーは気持ちを言葉にするのがあまり得意じゃない。リーダーの綾巴もその典型と言える。冒頭に挙げた今回の一節などはそんなアクションの苦手なメンバーの現況をそのままに映している。中途半端な発信は情報の渦に飲み込まれてしまうのだ。 チームSは明確かつ大胆にアクションを起こさなくてはならない。今こそGonna Jump!の時なんだ。 ところで、今回の一節、何でサビではなくAメロの一節を取り上げたかというと、この歌詞にあるノイズにかき消される叫びが楽曲全体のサウンドに結びつくからである。 この曲はロックンロール、一糸乱れぬバンドサウンドが気持ちいい。ギターの轟音はとどろき、ヘビーなビートがさらに拍車をかける。 そんななかヴォーカルが若干弱い。バンドの轟音にかき消されそうな優しさを抱えたメロディーである。そうそう、これがこの曲のポイント。バンドサウンドの音圧に飲み込まれそうになりながらも、必死に歌い続けるヴォーカルが歌詞とリンクして曲の世界観を立体的に表現しているのだ。 そんな楽曲におけるリンクがさらに今のチームSの現況とメンバーの葛藤と重なった時、この曲は若いチームSの飛躍へのテーマ曲のようになる。この曲を「重ねた足跡」のオープニングに持って来たのは誰か分からないが、凄いセットリストを組んだものだと思う。 さあ、チームSのジャンプを見届けようではないか。