#めるとお祭り
#めるとお祭り
放課後の文芸部室。
窓から見える校庭では、サッカー部がパス練習をしている。
秋の文化祭に向け、うちの部では作品展の準備をしていた。
僕は彼女に声をかけた
「部長、どこまで進んでいます?」
ひとつ年上で、しっかりものの
優等生タイプ。
さっぱりとした性格をしているかと思えば
どこか少女のようなあどけなさを
併せ持っている彼女。
「ちょっと、その堅い呼び方やめてよね。」
大きな黒い瞳で上目使いに、にらまれる。
そのしぐさが普段の居住まいと違って、コケティッシュでドキドキする。
「じゃあ なんて呼べばいいんですか。」
「先輩とか田島さんとか、あと」
「あと?」
「芽瑠さん とか」
「はい?いきなり下の名前呼びとか、無理ですよぉ」
「なになに?呼べないって?」
コツンと、グーで小突かれた。
「痛て。ひでぇなあ。」
彼女がふふふ。と笑って、また作品制作に戻る。
セミの声が聞こえる。もう夕暮れも近い。
僕は展示の準備にも飽きてきていた。
「部長、そろそろお開きにしません?」
「こら!だから、それ・・」
「あ。田島先輩。夏祭りやってますから、いきましょ!」
「渡辺くん、大丈夫なの?制作は・・」
「だ・い・じょ・う・ぶ!氷菓子、おごります。」
「ここで、行こうと言ったら負けのような気がする。」
「え? なぜですかぁ」
「だって 氷菓子に釣られてるみたいじゃない!」
可愛い。彼女にとって高校最後の夏、最後の文化祭。
気合がはいっているのは知っている。
けれど、僕にとって今日は彼女を独り占めできる
最後のチャンスだった。
「暑いですもん。いきましょ、いきましょ」
片付けもそこそこに部室から彼女を連れ出した。
他愛のない会話をしながら神社の境内につくと、
ひといきれと蒸し暑さで少しめまいがする。
「ここも暑いですね。」
「あー。浴衣で来ればよかったかな。」
胸の鼓動が早くなる。浴衣姿の彼女もきっと魅力的だろう。
だけど、夏の制服にポニーテールは、
高校時代の今この瞬間しかみることはできないはずだ。
「氷菓子、探しましょう」
足早に歩こうとして、急に彼女が僕の腕をつかまえた。
「ねぇ待ってよ。人ごみで迷子になる。」
「あ、ごめんなさい。」
「手を・・つないで。離さないで。」
「芽瑠、さん」
彼女が握ってきた手を
僕は強く握り返した。強く。
鳥居を照らしていた夕日がまぶしかった