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終わりのセラフ-小説
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  • あゆ
    あゆ


    ((プロローグ

    破滅。黙示録。天使。悪魔。

    これは百夜教による未知のウイルスによって世界が滅亡する前の話。

    ー滅亡前。
    そう言われると、“平和”といった単語を誰もが浮かべるだろう。

    しかし、世界はそれほど優しくない。
    いや、優しい世界なんてありえない。

    少なくとも民間人は平和に暮らしていた。

    けれども、中には平和という言葉すら見当たらない組織があった。

    それが日本帝鬼軍。

  • あゆ
    あゆ

    そこには二つの組織によって、また別れていた。


    ひとつは
    本家が統べる「帝ノ鬼」

    もうひとつは
    一瀬家が統べる「帝ノ月」

    それは悲しいくらい身分のかけ離れた家系だった。

    本家の柊家に対して、分家の一瀬だ。
    しかし、あの事件が起こる前までは一瀬家も名家の一員だったのだ。しかも柊家に仕えるほどに。



    柊家。本家。帝鬼軍中枢。と聞いた。幼い頃から。
    誇らしい、なんて。本家で生まれたことは幸せだ、なんて。
    そうかもしれない。でも違った。酷く違った。
    そこで生まれる者は力のためだけに生きてきたなんてことは柊の人間が一番知っているはずなんだから。

    柊の人間は産まれる直後から人体実験に扱われるという。

    そのせいでか、それとも柊家で育ったためか、

    ひとりは妹を救うために壊れ、
    ひとりは感情移入が乏しくなり…。



    これは分家の一瀬家が。
    様々な名家で生まれた子女達が。
    柊家で育った者達が。

    生まれながら必死に足掻き続けた物語であった。



    足掻き続けて。

    足掻き続けて。



    そして。


    ーー9年の月日がたった



  • あゆ
    あゆ



    《 月鬼ノ組 》に入隊してからどれくらいたっただろう。

    今日も渋谷は復興しすぎて人間で溢れかえってる。

    その、人混みの奥の、「mint squash」という名のファッションブランドの前で1人、百夜優一郎はうんざりしていた。

    女子群達のあまりの遅さに。

    おまけに与一は屋上で、見張り。
    城壁の結界があるから、まさかヨハネの四騎士は襲ってこないとは思うが、吸血鬼となると、なんともいえない。

    それに対して君月は「暑い」と呻き、この人混みの中、自販機へ行きやがり。

    絶対道草くってるだろあいつ…

    と、もう待ちに待ち疲れた17の少年はぐったりビルの壁に寄りかかる。

    なにせ今は夏に近い。いや夏だな。暑さ的に。

    三葉「待ったかー?」

    シノア「やーやー」

    と、そこでやっと女子どもが来たみたいだ。

    優「おせーよ」

    もう疲れきったと言わんばかりの顔で彼は呻く。
    するとそれに反乱するように

    三葉「それは悪かった…。が!!なんだ?それが上官に対する態度かぁ!…よし、私が女の子に対する正しい対応の仕方を…」


    で、このキーキーうるさいのは三宮三葉。階級は特務少尉。
    こいつは先祖代々受け継いでいる呪いによってなのか分からないが、日本人でありながら髪の色は金髪。二つ結び。
    優秀とかいう姉と比較されることにコンプレックスを持ってるらしいが。

    シノア「もぉ〜、ダメじゃないですか〜。これでもみっちゃんのガラスのハートはデリケートなんですから」

    三葉「な!?」

    んで、このヘラヘラしたのが柊シノア。軍曹。《柊家》の一族の一員で、後ろ髪だけリボンでまとめた紫がかった髪。確かコイツも姉がいるとかなんとか。

    シノア「まさか優さん知らないんですかー?これだから男の子は」

    優「なんのことだよ」

    するとシノアが突然楽しそうな、それでいてバカにしてるような口調で

    シノア「あは、待ち合わせで彼女が遅れた場合…『いや!、俺も今来たところなんだぜ!(キラン』と、まぁ、そんな感じで彼氏が言うのは常識なんですけどねー。ね、みっちゃん」

    三葉「え。、そ、そうだぞ優。いい加減レディファーストというものを覚えろ」

    因みに、“みっちゃん”というのは三葉のあだ名らしい。まあ、今んとこシノアしか使っていないけれど。

    優「お前ら…」


    シノア「あ、優さんはもう知ってます?」

    知らねーよ。と思ったが、何か手がかり、もしくは情報が集まったのかもしれないので、一応聞いてみる

    優「何が?」

    シノア「はい、つい最近なんですが、日本帝鬼軍に、それも私達の所属している月鬼ノ組に。異国の方が入隊すると。」

    三葉「な!異国の人間は日本帝鬼軍の軍法律上、禁止されているはずだぞ?!」

    優「じゃぁ何で入れたんだ?そもそもそうゆうの決めんのって誰なんだよ?」

    シノアは一瞬、笑みを消し、黙ったまま背中を向けた

    シノア「おそらく、暮人兄さんでしょう。それかお父様か。」

    じゃあ何で暮人はあっさり法律に背けてもなお、異国の人間を許した?

    その答えは簡単だった。

    シノア「つまり、それだけ彼女が優秀なのでしょう。」

  • あゆ
    あゆ

    つまりそうゆうことだった。

    シノア「だって、あの暮人兄さんが簡単に異国の人間を認める訳がないでしょう。何か考えがあったはず。」

    三葉「……。女、か…」

    優「……」


    シノア「あれぇ、もしかしてみっちゃん、男の子が良かったんですかぁ?」

    三葉「て、…な!?、そんなこと言ってないだろう!だいたい私はそんな…」

    と、うんぬんかんぬん。
    もうここにいるだけでだるいのに、こいつらは…

    シノア「あ、先に言っときますが」

    優「あ”?」

    シノア「私と優さんはもう一度普通科で授業を受けろー。と、軍上層部から緊急命令がくだりましたー」

    …;

    優「はぁ?なんでだよ…。それ、グレンが言ったのか?」

    三葉「ああ」

    優「って、お前も知ってたのかよ。」

    三葉「逆に何故知らなかった?シノア隊は皆報告されたは…」

    が、それを遮ってシノアが言った

    シノア「でも何故また私と優さんだけ普通科に通わなくちゃいけないのかは…分からないんですけどね…」



    そう…今だに上層部が考えている情報が掴めない。

    グレンの奴がまた何か企んでいるのか。
    それとも、その異国の人間が何かを仕出かそうとしているのか…

    分からなかった。あまりに情報が足りなすぎて…。

    ……ま、とりあえず、今出来る事をしようか…。

    って、今出来る事ってのは。

    優「普通科かよ…」


    シノア「あははー」

    彼は空を見上げ、落ち着いた野心を心に抱き、けれどその瞳にはほんの少しの弱みをうつしながら

    「ミカ……」


    と、一言だけ呟いた。

  • あゆ
    あゆ


    スタスタ…



    ─ここは、第二渋谷高校。
    帝ノ鬼が管理している、エリート揃いの逸材が通っていた第一渋谷高校とは全く違い、ごく普通の高校で、平和な所。

    けれど、そこに通う者は皆、有用な人材か見極める為の実験体のようなものである。

    ─はて、ほんの少し復興しただけで、この腐った世界に平和な学校が存在するのだろうか?

    そう、ここはそういう世界だ。
    怠ける者はすぐに置いていかれる。
    だから皆、足掻くのだ。

    大切な人を失ったから。
    もう誰も失いたくないから。
    自分にそれだけの力が足りないから。


    その1人の、百夜優一郎。と柊シノアは、平和。だという第二渋谷高校にもう一度入学…いや、転入することになった。

    ……。

    本当にここは、ごく普通の高校なのだろうか?、というほどに設備、いや、全ての造りが新しく、そんでもって、でかい。

    いやこれが普通の高校なのだろうか?

    俺は幼い頃は親に散々な目にあったし、あげく吸血鬼の都市で育ったからそういうところは分からないんだよなぁ…

    はぁ…

    すると、その心にだけ出したはずのため息が、外に出ちゃったらしく、やはりシノアがへらへらなんか言ってくる

    シノア「ため息なんてついてどうしたんですかぁ?って、まぁ、そりゃ退屈ですよねー。こんな普通の高校に通うなんて。なら、チームワークの訓練でもしたいですよねぇ。なんて。」

    もっともだ。それに、シノアはここを“普通の高校”と言った。ならばやはりここは普通の高校なのか?こんなデカイのが全国にいくつもあるのだろうか?

    もう、モヤモヤしているのが嫌だから聞いてみる

    優「ここってさ、普通の高校だよな?前から思ってたんだけどさ、なんか異様にデカくないか?…お前ずっとここにいたから分かるだろ?」

    すると何故かその質問に、シノアのへらへらした笑みが消えた。そして、こちらを見て言う

    シノア「私をどこで育ったと思ってるんですか?……。私はずっと第一渋谷高校とかの、こういう高校しか見たことがないので、知りません。第一、柊ですし。」

    ……

    優「あ…そっか…。なんかごめ…」

    が、それを遮って

    「いいんです。こんな世界で悲しみを抱えてない人なんて、もうほぼ存在しないんですから。」

    優「…」

    そうだ。ここは、
    吸血鬼が存在するのが当たり前な。
    ヨハネの四騎士が存在するのが当たり前な。
    そんな、普通じゃ考えられない世界。それが、この世の人々はもう全部当たり前になっている。

    そんなことを思いながら、今日転入するという教室の前へ向かう。

    すると、授業中で誰もいないはずの廊下の何メートルか先に、人の気配がする。
    シノアもその方向を見る。
    こいつもそれに気付いたみたいだ。

    先生「やぁ」

    と、そこで出てきたのは、

    軍人でもなく、吸血鬼でもなく、ごく普通の弱そうな教師だった。

    しかもその顔は何処かで見たことがあるようで…

    メガネに、七三分けの。

    先生「遅れてすまないな」

    シノア「いえ、私達も今来たとこなんで」

    七三分けの先生が歩く。

    ガラッ、と。教室の黒板側の扉が開く。すると…

    ポンッ

    何かが頭の上に乗っかった。
    髪の毛が少し白くなり、その周りには白い粉がまう。

    黒板消しだ。
    明らかに、黒板消し。

    誰か1人が笑い出す、その瞬間、次々と何人もの生徒が笑い出す。
    すると、先生が。

    先生「なんだこれは!?、(頭に乗っかってる黒板消しを取る)…。っ!黒板消しじゃないか!!くそ、君達はいつからこうなってしまったんだ?!」

    生徒達の笑いはおさまってきたが、まだ終わらない。

    優「いつの時代のイタズラだよ…」

    シノア「ははは」

    ちょっと頭の頭皮が白く染まったメガネの教師が、こっちを振り向く

    先生「君達。待たせてすまないな。入っていいぞ。」

    その言葉を聞いた生徒達は、急に静かになった。クラスに新しい仲間が増えることに緊張してるのだろう。

    スタスタ

    無言で。でもシノアは少しニヤニヤしながら、教室に入った。

    すると、その生徒の1人が。

    「もー先生、ちゃんと教室入る前は上を確認しないと。」

    その発言をした生徒は、酷く美しかった。
    髪は金髪。目の色は透き通った青。日本人ではないだろう。それか、異国の血が混じってるか。

    先生「最近君が転校して来てからろくなことがないよ、ラファエナくん。」

    その少女の名前は、“ラファエナ”というようだ。しかもそいつも転校生らしい。

    そういえば、何処かで見たことがある顔だ…。

    優「ミカ…」

    シノア「え?」

    小さな声だったからシノアにしか聞こえなかったはずだが…思わず出てしまった。自分でも分からないほど、無意識に。

    でも、確かにそうだ。と思う。なにせ、そっくりなのだから。

    先生「はぁ、もういい。お前ら、自己紹介を。」

    今更かよ。と思うが、ここにいる奴らは、俺とシノアのことを知らない。だから仕方なく言う。口を開く。言おうとしたら、シノアから言ってきた。


    シノア「柊シノアです。少しの間だと思いますが、よろしくおねがいします。」

    って。そんなちょっと具体的な自己紹介の後とかまぢでやりにくいんだけど。

    まぁ、いいか。

    優「百夜優一郎。よろしく。」

    すると横にいるシノアが

    シノア「はは、どっかの時代劇ですか」

    優「うっせえ」

    教室を見回す。
    特に目立ったものは見当たらない。
    さすが、平和な学校だけある。

    と、こちらに少し視線を感じる。
    そっちに目をやる。
    さっきのラファエナとかいう女だ。

    ぱったりそいつと目が合う。
    すると、ニコッと笑ってくる。
    目線を逸らす。

    先生「じゃ、2人はあっちの席な。」

    それは一番後ろ側の席だった。
    それもそうだろう。何かあったら後ろから護衛してもらおうとしているのだろう。

    もう、立ったり歩いたりで疲れたので直ぐに机へ向かう。座る。

    すると、



    「よろしくね」

    小さな。それでいて、とてもとおりそうな、声。

    優「ん?」

    そいつに、その声の方に、目をやる。

    優「げ。」

    そこにはさっき、先生にヤジを言った。俺と目が合った。異国の少女がいた。

    ラファエナは微笑みながら

    ラファエナ「酷いなぁ…ねね、私のことはエナって呼んでよ。みんなそう言ってるから。」

    と、何故かこっちに椅子を近づけてくる。

    優「くんなよ」

    エナ「やだ」

    優「はぁ…」

    エナ「私は優と同じだから」

    優「ん。何の話だよ?」

    一瞬思い出す。軍の上層部が異国の人間を帝鬼軍に入れたことを。
    こいつがそうなのか?
    そう考える。

    エナ「さっきの自己紹介で気付いたんだけど。あなた、苗字に百夜って名を持ってる」

    優「だから?」

    エナ「ううん、やっぱいい」

    優「なんだよ」

    でも、何を聞こうとしたのかは、大体予想はつく。
    この苗字から、百夜教の人間だと考えたのだろう。
    前にも暮人に呼び出された時に同じようなことを聞かれたからだ。

    しかもこいつは、“私は優と同じだから”と言っていた。
    それはこいつも人体実験の被験者だからか?百夜教に関わる人材だからなのか?

    分からなかった。

  • あゆ
    あゆ



    ──昼休み


    シノアがいつも通り、へらへらしながらこちらへ来る。

    シノア「やあやあ、やっと授業が終わりましたね」

    優「あぁ。くそグレンの奴め、何で授業まで受けなきゃいけねーんだよ」

    すると横から声がした。その言葉には聞き覚えのある単語があった。

    エナ「グレンを知ってるの?」

    シノア「え…」

    優「お前、」

    エナ「最近合ったの。暮人くんが私の審査をしてね。」

    やはりそうだった。
    異国から引き受けた人間とは、エナのことだった。

    “つまり、彼女がそれだけ優秀なのでしょう”

    この間シノアが言った言葉をふと、思い出す。
    しかも暮人にも会ったという。
    そこまで行くということは、やはりエナの力はそれほどまでに強いのだろうか。

    シノア「あぁ、やっと分かりました」

    優「何で俺達がこの学校に通わなきゃいけないのかが、か?」

    シノア「はい。ラファエナさんを…」

    すると椅子に座っていたエナが立ち上がり。

    エナ「エナでいいよ。それと、これから、また暮人くんの所へ行かなきゃ」

    優「あぁ、気をつけてな」

    エナ「うん、ありがとう」

    …。

    暮人の呼び出しか。
    あの時みたいに、また拷問をするのか。したら…
    するとそこでシノアが

    シノア「先程の話ですが…つまり軍の目的はエナさんの監視でしょう。同じ人間とはいえ、国が違いますし。」

    優「だから、危険人物ではないのかを見張れって?」


    シノア「はい。私達2人だけに渡された任務です。それだけ信じられている。だからこの任務も遊びじゃない。授業中もあくまで監視中です」

    優「ああ、分かった。」

    シノア「でも優さん気を付けてくださいよ。なにせ席がお隣ですから」

    そう。危険。
    でも、俺にはそうは見えない。
    ちょっと礼儀がなっていなさそうな奴だったが、いい奴そうにも見えた。
    だから今日会ったばかりだけど、彼女を信じたい。と思う。

    異国とはいえ、いったい何処から来たのか?

    向こうから勝手に来たのか。
    こっちが呼んだのか。
    でもどうやって…まぁ、ネット回線は取り戻したから、その手もある。
    けれど…





    キーンコーンカーンコーン


    チャイムが鳴った。
    昼休みが終わった。
    授業が始まる。

    でも、エナはもう、日本帝鬼軍本部に移動したはず。
    だから…

    先生「君達はもう帰っていいぞ」

    やっぱりな。

    シノア「行きましょうか」

    優「ああ」

    鞄と刀を持ち、彼は教室をぬける。
    廊下を歩くたび、教室にいる生徒達がこちらを向く。

    一人が。
    二人が。
    全員が。
    こちらに気づく。

    別にそんなことはどうでもいい。
    今はエナが何者かが知りたい。
    別にそれは恋愛感情とかそうゆうのではない。
    ただ、何か情報を知りたい。
    その為には…

    優「後で馬鹿グレンとこに行くか…」

    シノア「あはは。お好きにどうぞ。あ、その時は私も宜しくお願いしますね」

    優「なんでだよ。って、ま、いいけど」

    そのまま。平然と、冷水機などしかない、静かな風邪が抜け、教室では、教師が何か話している声がする。授業をしているのだろう。そんな。無防備な廊下を、2人は、危機感を持ちながらも歩いていった。

  • あゆ
    あゆ


    第三章 離れ離れの家族


    もし、自分の家族に何かあったら、あなたはどうする?
    虐待を受けていたら、あなたはどうする?
    答えは簡単だ。人は必ず、理性を持った人間は必ず、助けに行くだろう。

    でも、あの時の私は。
    力の無かった私は。
    まだ5歳だった私は。
    まるで何も出来なかった。

    辛かった。憎かった。親が。
    唯一の自分の家族が。

    私の大切な弟を。ミカを…

    あいつらは…

    ……


    楽しかった思い出が蘇る。
    あの時の。
    幸せだった時の。
    家族皆で誕生日パーティをした時の。記憶。



    ──私が生まれた次の年。進藤ミカエラは生まれた。

    その日から、恒例のチョコレートケーキの、ロウソクに火を灯し、ミカが火を消そうとして、息を吹く。

    それを自分も入って一緒に火を消したのを覚えてる。

    そしたらミカが、「もう、エナったら。僕のお誕生日なのに。」と、ちょっと頬を膨らませ、拗ねた顔で。だけど、後から笑って。
    皆で笑って。
    ミカの笑顔が可愛くって。
    楽しかった。幸せだった。

    エナ「私は超頭いい天才ちゃんだからいいんだもーん」

    母「エナは本当に頭がいいものね」

    ミカ「もーお母さんまで」

    そしてまた、家族で笑った。
    その笑いは楽しさ。幸せさ。そのものだった。

    ずっと一緒にいたいと、心底思った。

    ………

    だが、いつからだろう。
    私とミカは変な建物へ連れてかれた。そこは実験室みたいなところ。

    最初は何かの見学に行くとかお母さんが言っていたから、楽しみだった。大好きな家族と一緒に行けるのだから。もう、それだけで充分だった。


    だが違った。酷く違った。
    世界はそこまで光に照らされてはいなかった。

    私の家族は、私とミカの親は、売ったのだ。自分の子供を。
    《百夜教》とかいう謎の組織に。

    《終わりの天使》とかいう禁忌の研究に。金銭目当てで。

    それに気づいたのは、私がもっと大きくなってからだったけれど。


    それからというもの、お母さんとお父さんの調子が悪い。
    自分も、家に帰ってきてから、何があったのかサッパリ覚えていない。消されたのだ。記憶を。百夜教に。

    そんな日が何日も続く。
    楽しかった日々が壊れる。
    大好きな家族の日々が壊れる。

    その時6歳だった私も、これだけは分かった。

    ここにいちゃいけない。
    ここにいたら、いずれ殺される。

    だからこっそりミカを呼んで、脱出を目論んだ。
    逃げても、ここにいても、どっちにしたって、命は惜しい。

    だけど今やらなきゃどうする。

    危ないと分かっていながら。
    絶対殺されると分かっていながら。
    階段を静かに降り、リビングに着き、フローリングをペタペタ音を出しながら進んだ。まずい。と思った。それでも、それでも、ミカだけでも逃げてほしいと思った。

    廊下を抜け、ドアを開けようとした時。
    その時だった。
    階段を降りてくる音がした。

    思わず声をあげそうになるが、息を殺し、ミカにも、「しーっ」と、人差し指を口の前に立て、小さな声で。言う。

    階段を降りる息遣いで誰かはすぐ分かった。お父さんだ。

    いつも優しかったのに、最近お母さんに暴力を奮っていた奴。

    あ…忘れてた。すっかり忘れてた。
    この時間になると、お父さんは必ずお酒を飲みに来るのだ。

    こんな事に気づかなかった自分を恨む。
    しかし、そんな場合ではない。

    焦る。焦る。

    まだ5歳のミカは、危機感というのはまだ持っていなかった。
    ならば、私が守らないと。

    必死に息を殺したので、まだ小さな私達には、お父さんは気づいてない。

    それにホッとしたのか。思わず玄関で、履いている靴を地面に擦らせる音が響いてしまった。

    それにまた、心臓の鼓動が速くなる。

    絶望と日弱な焦り。
    気づかないで、振り返らないで。という欲求が頭によぎる。

    振り向かないで。
    聞かないで。
    こっちに来ないで。

    強く、強く願った。

    けれど、神様は許してくれなかった。

    お父さんは、いや、あいつ
    はこちらを向く。
    そして見る。
    怯える顔を。靴を履いているのを。

    最悪だ。なんでこんな人になってしまったんだろう。

    そして怒鳴る

    父「お前ら!!!!何をやってる?!!!」


    こっちに来る。やっぱり来た。
    ドアを開けてミカと一緒に逃げようとした。

    けれど、やはり、こんな弱っちい私達は直ぐに捕まった。


    「離して!」

    「助けて!」

    叫んだ。近所の人達に聞こえるように。でも夜中だ。皆寝ている。気づく訳がない。

    しかもまた、最悪な事が起きた。

    お母さんも降りてきたのだ。
    私達を百夜教に売った。奴。

    母「エナ?ミカ?何してるの?」

    優しく問いかけてくる。
    しかしそれは嘘だ。もうこの人達のやり方はわかる。
    ミカは泣きながらも笑ってそちらに行こうとするが、明らかに暗示だ。だから、危ないから、止める。
    もう騙されない。

    すると向こうから誰かが駆け寄って来るのがわかる。

    近所の人「どうしたのー??!」


    父「チッ」

    近所の人が来たのだ。
    その瞬間。真っ黒に染まった私の心の闇に大きな光が訪れたと思った。

    助けがきた。

    そう思った瞬間、お父さんは私達を引っ張り、庭を渡り、車の鍵を開け、車に私達2人を投げ入れた。

    近所の人「進藤さん?!あなた…」

    だが父は待たなかった。
    そのまま母も車に乗せ、エンジンを付け、勢いよく発車した。

    ブロロロ

    ……

    ……

    随分遠くまで来たようだ。
    それは見たこともない景色。
    でも、横には、前には、母と父がいる。



    もう絶望的だった。
    私とミカは、怯え、震え、縮こまりながら、2人でずっと、寄り添っていた。

    ブロロロ


    ガタン


    ……


    何処かに着いたようだ。
    一旦顔を上げた。車の扉が開く。その瞬間。

    ゴッ

    何かが殴られる音がした。

    「やめてぇ!」

    ミカだ。まだ5歳の少年が、こんなにも悲しい運命に陥っている

    その瞬間。

    ゴッ

    「きゃ!」

    私も殴られる。

    殴られる。
    殴られる。
    意識がとぶ。
    目が覚める。
    殴られる。

    ミカは車の外でぐったりと倒れていた。

    私は、泣きながら

    「ミカぁ!!!待って!言うこと聞くから!ミカだけは殺さないで!!」

    叫ぶ。もう嫌だから。こんな事で、家族が死ぬのが、もう、うんざりなくらい嫌だから。

    すると、一瞬沈黙する。