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ロングコートダディ堂前

1月26日(土) 散髪にいくことに。 1年ほど通っているいつものとこへ行く。 お客さんはどうやら僕だけのよう。嬉しい。 いつもの左藤さんにに切ってもらう。 佐藤さんではなく左藤さんだと先月判明した。 椅子に腰掛け、左藤さんの 「どんな感じにしやしょう」という台詞を待つが 左藤さんは黙っている。 どうしたんだろうと顔色をうかがっていると 左藤さんが口を開いた。 そして口を閉じた。 なんか喋るのかと思った。びっくりした。 パクという音だけが店内に鳴り響いた。 僕は「どうしたんですか?」と聞くと 左藤さんは 「あの…今日ちょっと僕の好きな感じで切らせてもらえたらな~と思うんですけど…どうでしょう?」と言った。 僕は驚いた。 左藤さんは基本無口な人で、自分の意見を言ったりしてるのを聞いたのは初めてだった。 僕はなんだか嬉しくなり 「え…全然いいですよ!あんまり奇抜すぎるのはきついですけど!」と答えた。 僕自身、まだ人生で「これだ」という髪型が決まっていなかったので、一度左藤さんに任せることにした。 左藤さんは 「や、やっぴー!!ありがとうございます!」 と言った。 左藤さんがやっぴーと言った。相当嬉しかったのだろう。 いったいどんな髪型になるのだろう。楽しみだ。 まずはシャンプー。心なしか僕の頭を洗う左藤さんの手がウキウキしているように思えた。 ご機嫌なシャンプーを終え、席に戻る。 すると左藤さんが プレステ2くらいのでかいバリカンを持ってきた。 初めて見た。初代の方のプレステ2だ。 左藤さんも両手で持っている。 僕は「な、なんですかそれ!」と言うと 左藤さんは 「だ、大丈夫です。まずちょっと細かいとこにバリカンをいれたいんです。あの、普通のバリカンより、この大きいバリカンの角使う方が細かい作業できるんすよ」 と言った。 そんなわけないと思った。 普通のバリカンの角を使えばいいと思った。 僕は 「いや、おかしいですよ!ちょっと待ってください!」と言うと 左藤さんは「黙ってよ!」と言いながら 僕の口になにやら湿った布を押し当ててきた。 そこから僕は少し眠ってしまっていたようだ。 目を覚ますと、目の前に汗だくの左藤さんがいた。 時計を見ると、17時。 入店してから5時間ほど経っていたようだ。 左藤さんが 「すいません、無理矢理やっちゃって… でも、無事完成しました。」と言う。 おそるおそる鏡で自分の髪型を確認すると いつもと同じ感じだ。 特に奇抜なところもない。 僕が「え?」と言うと、 左藤さんが鏡を持ってきて 「後ろこんな感じです」と見せてきた。 後ろを確認すると なんか刈り上がってるといった感じ。 でもそんな変な風には見えない。 すると左藤さんが 「よく見てください」と言う。 よく見てみると なんかすっごい段々になってる。 茶畑みたいになってる。 左藤さんは嬉しそうに 「サーティーツーブロックっす」と言った。 僕のえりあしからつむじにかけて 32段のカリアゲの段差が形成されていた。 手で触ってみるとよく分かった。 ダララララララララララとなる。 僕は「おお…すごいっすね…」と言うと 左藤さんは 「んひへへ」と笑った。

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