【魔女っ娘サキーヌ ②】 今日は、大好きなマナミちゃんと、最近リニューアルしたブティック【KOUN】でショッピング。 「ねぇねぇ、サキちゃん！　色んな服が沢山あるね！」 短いポニーテールを揺らし、瞳を輝かせるマナミちゃん。 「そうだね。マナミちゃん」 今まで入ったことのないようなオシャレなお店に私はどぎまぎ。 「これなんか、私にピッタリだと思わない？」 マナミちゃんは、淡いピンク色のふりふりしたワンピースを体にあてがっている。 マナミちゃんの透明感がより一層引き立って、めちゃめちゃ可愛い。 「うん！　すっごく可愛いよ！」 私は、マナミちゃんの手を握り、精一杯の表現でマナミちゃんの可愛さを伝えた。 マナミちゃんの手は、温かくて柔らかくて、とっても気持ちがいい。 「これは、どうかな？　似合う？」 マナミちゃんは、白いチュニックを広げると、天使のように微笑んだ。 「もちろん！　どれもマナミちゃんにピッタリだよ。とても可愛い」 「うん！　知ってる！」 「ねぇ。マナミちゃん。私は……どういうのが似合うかな？」 勇気を出して、マナミちゃんに聞いてみた。 「うーんとね。サキちゃんは、根暗で残念系女子だから……」 そう言うと、マナミちゃんはブティックの中をうろうろと歩き出した。 マナミちゃんに洋服を選んでもらえるなんて、とっても幸せ。 私がドキドキしながら待っていると、マナミちゃんがにこにしながら私の方に歩いてきた。 一歩、一歩と近づいてくるたびに私の心臓は飛び出しそうになる。 「まっ、マナミちゃん。いいの見つかった？」 「うん！　これだよ！」 そう言ってマナミちゃんが私の前に出したのは、何の変哲もない無地のバスタオル。 「マナミちゃん。これって……」 マナミちゃんの斜め上をいくチョイスに戸惑う私。 「うん！　バスタオルだよ！　ちょっと巻いてみてよ！」 私はマナミちゃんから無地のバスタオルを受け取ると、それをお風呂上がりのように体に巻いてみた。 「こっ、これでいいの？」 「サキちゃん！　貧乏くさそうで、とっても似合ってるよ！　サキちゃんの私服は、今日からそれで決まりね！」 やった！　マナミちゃんが褒めてくれた！ 「ありがとう。マナミちゃん！」 私が感謝の言葉を伝えると、マナミちゃんは私の体からバスタオルを剥ぎ取った。 無地のバスタオルをバサバサと翻しながらレジに走るマナミちゃん。 今日は、とってもハッピー。 と、その時。 私の携帯電話が鳴った。 上着のポケットから携帯電話を取り出すと、画面に写し出されたのは【ポッコロ様】の文字。 私は、急いでブティックの試着室に駆け込んだ。 「ポッコロ様。お待たせして申し訳ありません」 『サキーヌよ。今、ブティック【KOUN】に潜入しているそうだな』 電話からは、ポッコロ様の低い声。 「はい。その通りです」 『よし。じゃあそのブティックを制圧するのだ。ぬかるなよ』 私はポッコロ様との通話を終えると、ネックレスとして胸にかけていたステッキに手を置いた。 私の指に触れるなり、黒く装飾されたステッキは元の大きさに戻った。 そのステッキを片手に握り締め、精神を集中する。 「ポッコロ、ポッコロ、スポポポポーン！」 私の呪文を合図に試着室は、眩い光に包まれた。 試着室の狭さをものともせずに私の体は横回転する。 三回目の回転で、身につけていた全ての服が光の中へと消えた。 私は、なおも回転を続ける。 そのたびに起伏の少ない私の体にコスチュームが付着されていく。 手には黒い布地の手袋。 足首には紐が交差し、黒いヒールが現れる。 そして、最後の回転で、全身黒いドレスを身にまとい変身は終了した。 そう、なにを隠そう私は、世界征服を企てるポッコロ団の魔女っ娘戦闘員【サキーヌ】なのだ。 私は急いでブティックの外に出ると、外で履き掃除をしていたブティックのお姉さんを見つけた。 「ブティックのお姉さん！」 私は、ステッキを前に掲げると、お姉さんに向かって叫んだ。 「あっ、あなたは魔女っ娘サキーヌ！」 驚きの表情を見せるお姉さん。 「このブティックの名前の文字を並び替えてほしくなかったら、我がポッコロ団の配下になりなさい！」 私はそう言うと、ブティックの看板にステッキを向けた。 「待ってちょうだい。店長に相談させて！」 お姉さんの顔が恐怖でひきつった。 「早くしないと、並び変えちゃうわよ！」 ごめんなさい。優しいお姉さん。 このお店は、ポッコロ団のアジトとして使わせてもらうわ。 と、その時。 「魔女っ娘サキーヌ！　そこまでよ！」 「この声は、魔女っ娘マナミン！」 振り返ると、そこにはピンク色の魔女っ娘ドレスを身に纏った憎きライバル、マナミンの姿があった。 「また悪さしようとしているのね！」 「一足遅かったわね。マナミン！　えいっ！」 私は、ブティックの看板に魔法をかけた。 紫色の魔力が看板に当たると、ブティックの看板に書かれていた【KOUN】の文字が【UNKO】に変わった。 「きゃー！」 その場に膝をつき、泣き叫ぶお姉さん。 「こんなことしたら、お客さんがおトイレだと思っちゃうじゃない！」 「こんなの序の口よ！　いずれは、この街のブティックは全て名前を並び替えてやるわ！　はーはっはー！」 私は、ポッコロ団の勝利を確信し、慣れない高笑いをした。 「もう、許さない！　サキーヌ！」 マナミンは、ピンク色のステッキを両手で握ると、それを私に向けた。 「今日こそ決着よ！　マナミン！」 私もステッキをマナミンに向けると、ステッキの先に魔力を集中させた。 「これでもくらいなさい！　魔女っ娘キャノン！」 私は、マナミンが仕掛けるよりも早く、魔力の塊を打ち出した。 魔力の塊は、紫色の光を放ちながら、その威力を上げてマナミンに迫る。 先手必勝よ。 「くっ！　魔女っ娘バリア！」 マナミンは、とっさに自分の前に魔力の壁を作った。 「無駄よ！」 落雷のような派手な音を響かせ、私の魔力が、マナミンの魔力とぶつかる。 このまま押し切るしかない！ 私は、ピンク色に輝く壁を突き破るべく、さらに魔力を込める。 「くっ！　くっそったれがー！」 マナミンも負けじと魔力を注ぎ、壁を強化した。 バチバチとぶつかり合う力と力。 その時。 「お客さーん。忘れ物ですよー」 突然、ブティックから無地のバスタオルを持った店長さんが現れた。 「「あっ、あれは！」」 私とマナミンの声が重なると同時に、二つの魔力が相殺した。 この状況の中、店長さんはバスタオルを持ち、何故かマナミンに駆け寄った。 「店長さん！　それは……マナミちゃんの！」 私がそう叫んだその時。 「隙あり！　魔女っ娘ボディブロー！」 とっさに体全体に防御魔法をかけるも、腹部に鈍器で殴られたような鈍痛が走った。 「ぐおっ！」 魔力で何倍にも威力を増した拳をくらい、派手に吹っ飛んだ私の体は、勢いそのままにブティックのショーウィドーを突き破る。 「いてててて。とっさに防御魔法かけといてよかったわ。やってくれたわね。マナミン！」 私は、痛む腹部を抑えながら、上半身を起こした。 「ぎゃー！　なにしてくれてんのよー！」 めちゃめちゃに破壊されたブティックを見て、店長さんが叫ぶ。 その声を聞き、冷静に辺りを見回した。 ショーウィドーが無惨に割れ、ガラスの破片が散らばっている。 飾られていたマネキンは、首と左腕がもげている状態だった。 「ごっ、ごめんなさい！」 店内から外を見るも、そこにマナミンの姿はない。 私は、全ての魔力を使い、破壊したブティックを元に戻すことになった。 「マナミンめ！　覚えてなさい！」 私の世界征服への道のりは続くのであった。