No.602 『脱北航路』 　月村 了衛著(2022/04/15 幻冬舍) ※『小説幻冬』（2021年6月号〜2022年1月号）に連載したもの 2022/04/16 腐敗した祖国を捨て日本への亡命を企てる、北朝鮮海軍の艦長、桂東月（ケ・ドンウォル）を慕うプロフェショナルな潜水艦11号乗組員達。 そこに同乗する傲慢な政治指導員の辛吉夏（シン・ギルハ）と亡命の重要なカードとして連れて来られた日本人拉致被害者の広野珠代。 それぞれの運命がたった三日間の攻防に凝縮され、信頼や対立、規律や怨嗟を縦横に、訳ありで複雑な関係が明確になる頃、シンバシィが半端なくなる。 荒れる冬の朝鮮東海での潜水艦同士の死闘は息が詰まり、手に汗握る頭脳戦に強く引き込まれてしまう。 45年前に拉致された少女が、祖国に無視され続け、今また見捨てられる寸前に発する魂の叫びにとうとう涙腺が崩壊してずっと泣いてしまう。日本国や政治家は姑息で、同胞一人救えない腰抜けの国家と皮肉たっぷりに描かれていて、悔しくて悲しくて怒りが込み上げるからだ。 亡命の行方と横田めぐみさんを想起させる珠代の帰国が叶うのか？震えながらハラハラしながら読み終えた。 現実にありうる話であり、いや有ってはならない、やはりあって欲しいと気持ちも激しく揺れ動いた。 軍事オタクでもなく、空間認識が甘い私でも楽しめたが、映画にこそすべき作品だと思う。 755で『土漠の花』が盛り上がったのは2015年だったはず。それから7年か。また来たかな月村了衛ブーム。それもこれも有馬大樹さんのせいだったんだな。 【引いた言葉】 防空識別圏（ぼうくうしきべつけん、英: Air Defense Identification Zone, ADIZ）とは、各国が防空上の必要性から領空とは別に設定した空域のことである。英称の頭文字から「アディズ」や「エイディズ」と呼ばれることがある。 パッシブ‐ソナー（passive sonar） 船舶や魚などが発する音を捉えて、その位置や方向を測定するソナー。また、その探知方式。⇔アクティブソナー。 アクティブ‐ソナー（active sonar） パルス状の音波を発し、船舶・魚群・海底地形などに反射して戻ってくるまでの時間や強度から、対象物までの距離などを測定するソナー。また、その探知方式。⇔パッシブソナー。