No.659 『どこかでベートーヴェン』  中山七里著 （2017/5/24宝島社文庫） 2023/01/23（1/19読了） 本作は『いつまでショパン』（岬洋介シリーズ）の次の作品（５作品目）にあたる。 中山七里さんのこのシリーズでは、毎回異なる主人公の視点で岬洋介を冷静に見ることが出来る。実は岬洋介の視点でも読みたいと思うのだが叶わない。 このシリーズのテーマはずっと一貫して才能と人間性とその相克だと思う。抜きん出た才能の持ち主の岬洋介とその周りにいる、いわゆる普通の人の主人公達が、彼の性格や才能に妬み嫉み絶望を抱いて、事件に絡んで、やっと自分の立ち位置や生き方から希望を見い出し、あるいは諦めて終わる。当たり前だが、スポーツ選手や音楽家にはスキル（才能）が最優先される。人間性はどうでもよいと思うのだが有った方が余計な軋轢を生まない。今回、岬洋介はクラスメート達の前でベートーヴェンの協奏曲を弾き嫉妬を買い、殺人事件の容疑者になり、自力で無実を晴らして行くというほろ苦い物語であった。またしても空気を読まない、絶対的ピアニストであり、ピアノや音楽をこよなく愛するにも関わらず、突発性難聴に犯され絶望しながらの解決であった。父には法曹界へ進むよう強要され、瀬戸際でまさに踏ん張っていた。言うならばこのシリーズのエピソード０である。 最後の章「協奏曲」は岬洋介と検事の父親との初めての事件解決の物語があり、家庭の事情と彼らの才能により冤罪が防がれた話でかなり引き込まれた。父は音楽を嫌い、彼の特別な才能を見出し嫉妬しながらも、法曹界に誘おうとしたのだ。そんな父親の気持ちも分からないではない。そこがあって『さよならドビユッシー』へ繋がる。 いつものことながら中山七里さんのクラッシックへの造詣の深さが尋常でないことが分かる。本作ではベートーヴェンのピアノソナタ第８番「悲愴」を詳しく解説してくれている。ほとんど内容は理解出来ないのだが、少しずつでも覚えていこうと思う。次に読む時には理解が進んでいるだろうか？ 【登場人物】 鷹村亮:加茂北高校音楽科2年 岬洋介:転校生