9月27日(日)
近くの公園で「交換市(こうかんいち)」が催されていたので参加させてもらった。
交換市とは、町のみんなが自分には不要なモノだと思うものを持ちよって交換をするイベントだ。
金銭の授受が発生することはなく、物々交換のみでやりとりが行われる。
僕は「ノートパソコン」を持っていくことに。
まだまだ使えるノートパソコンだし、まだ少し使いたいのだが、参加するのは今年が初めてだったので周りの人にナメられないようにちょっといいものを持って参加したかったのだ。
ノートパソコンを持って公園に到着すると、
公園がザワついた。
みんな、信じられないといった表情だった。
ぞくぞくと僕の周りに人が集まってきた。
40くらいのおじさんが
「すいません、これと交換していただけないですか」
と話しかけてきた。
おじさんが手に持っていたのは
50本入りのカラフルなストローだった。
さすがにこれとは交換できないと感じ、
丁重に断ると
おじさんが
「うわ、うわあああ!!!」と逃げ出した。
逃げ出したおじさんを係員が捕らえたかと思うと、
おじさんの手の甲にスタンプのようなものが押された。
この交換市では、交渉に失敗すると
手の甲に「交換不可人間」というスタンプが押され
その日はもう物の交換が禁じられるらしい。
スタンプは特殊な薬品を使わないと消すことができない。帰りに受付で特殊な薬品は貰える。
迷惑な交渉行為を減らすための措置らしい。
おじさんには悪いことをしてしまったが、パソコンをナメないでほしい。
ポニーテールのキレイな女性が近づいてきた。
「これと交換してくれませんか?」
女性が手に持っていたのは
小さいエコバッグだった。
僕が、さすがにこれではと渋った表情を見せると
女性が
「待って待って、ちがうのちがうの、ほら」
とこっそりエコバッグの中身を見せてきた。
290円くらいの小銭が入っていた。
僕が「ごめんなさい」と断ると
女性は
「きゃ、きゃあああ!!!」と逃げ出したが
係員にポニーテールをぐっと持たれ
手の甲にスタンプが押された。
そこからは直接交渉しようとしてくる者はおらず、
自分の持ってきたものをチラチラ見せながら
遠目からアイコンタクトをとってくる者ばかり。
交渉権を使ったとみなされないようにする卑怯なプレイング。
係員も下唇を噛んで、もどかしげな様子。
その卑怯な奴たちが持っているものも
薄手のハーフパンツ、
ボーリング場のカレンダー、
昔のハモネプのCD、
烈火の炎4巻
夢日記
などの特に要らないものばかりで
もう帰ろうかと思ったその時、
一人の子供が声をかけてきた。
「おにいさん、これと交換してください!」
子供が手に持っていたのは
キレイな泥団子だった。
子供がびくびくと緊張しながらこちらの様子をうかがってくる。
この子にとってこの泥団子はとても大事な宝物なのだろう。勇気を出して交渉しにきてくれたのだろう。
僕は
「ありがとうね、うん、キレイな、団子のね。
よし、交渉成立!うん、あげようこれを!
ノートパソコンをね!そう。
でもね、その団子はもらえないよさ。よさ?
それは君の宝物だろう、な。だから、うん
いらないとかじゃないんだっけど
俺だけ、えーっと僕だけ
はい、あげるということで、うん。
泥団子は、持っておこう。
君がね、うん。キレイだから。
やったね?」
と言った。
いい感じにしようとしたが、緊張してしまい上手く言えなかった。
子供はよく分かっていないようで愛想笑いを続けていたが、ノートパソコンをあげると嬉しそうに帰っていった。
来年もまた来てみようと思った。
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