水谷健吾水谷健吾 《カタラガマ寺院より》
夏も近いし創作ホラー短編載せるよ
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水谷健吾 《門番と死神》
屋敷の外。
「なるほど、確かに貴方は真面目なお方のようだ。」
門の側にいる私に死神が話しかける。スーツ姿できっちり固められた髪はどこにでもいるサラリーマンそのものだ。
しかし、おかしなところが二つ。
人数を数える時にカチカチならす道具、確か数取機という名前だった気がするが、それを持っていること。
そして数十cmだけ地上から浮いていることだ。
「私はこの屋敷につかえて以来ずっとここを守ってきた。やましいことなど一切ない。」
「えぇ。分かります。分かります。それは貴方の魂を見れば一目瞭然です。今時、珍しいくらい高潔な方だ。
そんな貴方に不利益を持ち込むつもりはございません。」
「ならば何をしに来た?死神は不幸を呼ぶ存在だろう?」
「それは勘違いです。我々が不幸をもたらすのは魂が汚れた存在にだけ。清い魂の方にはむしろ願いを叶えて差し上げるのが仕事です。」
「私には願いなどない。この屋敷の親方様にお仕えしているだけで十分幸せだ。」
「それはまた素晴らしい意見だ。ますます私は貴方のお役に立ちたくなってきました。
どうです?どんな些細なことでも無理難題でも構いません。」
「そこまで言うのなら…」
「何かありますか?」
「この屋敷には大変美しいお嬢様がいらっしゃる。
見た目だけではない。心もまた優れてらっしゃるのだ。私なんかにも笑いかけて下さる。
ご主人様ももちろんお嬢様を可愛がり愛情を注がれているのだが、幾分、過保護が過ぎる嫌いがある。
お嬢様は外の世界を見たがっているのだ。」
「なるほど、その程度お安い御用です。」
悪魔はパチンと指を鳴らした。
同時に悪魔は消え去り、代わりにお嬢様がそこに座っている。
状況が分からないのだろう。唖然と周りをキョロキョロしていた。
「お嬢様…」
「私、さっきまでお母様といたのに。ここは?」
「行きましょう。この先に外の世界があります。」
私は足に力を入れ駆け出す。気付けば私の首輪をなくなっていた。
お嬢様がその後ろから4本の足を小刻みに動かしながら追って来る。