夏も近いし創作ホラー短編載せるよ
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- 水谷健吾
水谷健吾 《カタラガマ寺院より》
私は科学者としてこの自体にどう対応すれば良いのだろうか。
分かるはずが無い。あまりにも非現実的過ぎるのだ。
それは超常現象であり、宗教じみている。
私の前に座る被験者、彼こそがカタラガマ寺院からの来訪者である。この寺院を御存知だろうか?
南西スリランカにある”世界一”苦行が厳しい寺院である。
「君は、いや君たちは一年中自分の体を傷つけるのかい?」
私は被験者に尋ねる。
「ええ。」
彼は訛った英語で答えた。クセはあるが聞き取れないほどでは無い
。
「私たちは神と一体化するため、そして神へ自らの身を献上するために苦行を行っています。」
「僕の資料によると、君たちは自分の頬から頬へ鋼の串を貫通させたり、摂氏800度の石の上を歩くとあるんだが、」
「ええ、間違いありません。」
彼は当然のように答える。カラタガマ寺院では当たり前のことなのだろう。
「それは痛くないのかな?」
「ええ、痛みはありません。出血も火傷を我々にはないのです。」
「それは何故だい?」
「神聖な儀式だからです。」
「・・・そうか。なるほど。」
私は頭を抱える。彼らにはそうなのだ。実際にその寺院を訪れた他の科学者も、外傷なく苦行を遂行する人間を見ている。
一応、科学的な理屈付がないこともない。例えば高熱の石を歩く場合、彼らの身のこなしの軽さから、素早く足が地面に着いたら離すようにすれば足の温度は10~20度で済む。
だが、それだけでは説明出来ないのは確かだ。特に今、目の前の出来事は明らかに理論外だ。
「えと、それで本題というか君の相談に入るんだけど。」
彼は身を乗り出す。
しかしそれは比喩でしかない。私は意を決するとこの非科学の境地とも言える現実に対応すべく被験者の顔を見た。
そう。それはそのままの意味。つまり、私の前には顔、正確にいえば首から上しか無い。
彼は苦行の果てに自分の首を切り落とした。だが、それで死ぬことも無く生き続けているのだ。
彼の体は脳の命令がなくなった今ですら、長年の染み込んだ習慣に侵され自分の体を切り刻んでいる。
顔以外で残っているのは右肘から先しかない。その右肘が他の部分をまるで野菜でも切るようにバラバラにしているのだ。
「私は死ぬことが出来るのでしょうか?」
彼らにとって、死は神の世界に行くことで恐れるべきことではない。
「それとも、既に死んでいるのでしょうか?」
私は曖昧に笑うしかなかった。 - 水谷健吾
水谷健吾 《門番と死神》
屋敷の外。
「なるほど、確かに貴方は真面目なお方のようだ。」
門の側にいる私に死神が話しかける。スーツ姿できっちり固められた髪はどこにでもいるサラリーマンそのものだ。
しかし、おかしなところが二つ。
人数を数える時にカチカチならす道具、確か数取機という名前だった気がするが、それを持っていること。
そして数十cmだけ地上から浮いていることだ。
「私はこの屋敷につかえて以来ずっとここを守ってきた。やましいことなど一切ない。」
「えぇ。分かります。分かります。それは貴方の魂を見れば一目瞭然です。今時、珍しいくらい高潔な方だ。
そんな貴方に不利益を持ち込むつもりはございません。」
「ならば何をしに来た?死神は不幸を呼ぶ存在だろう?」
「それは勘違いです。我々が不幸をもたらすのは魂が汚れた存在にだけ。清い魂の方にはむしろ願いを叶えて差し上げるのが仕事です。」
「私には願いなどない。この屋敷の親方様にお仕えしているだけで十分幸せだ。」
「それはまた素晴らしい意見だ。ますます私は貴方のお役に立ちたくなってきました。
どうです?どんな些細なことでも無理難題でも構いません。」
「そこまで言うのなら…」
「何かありますか?」
「この屋敷には大変美しいお嬢様がいらっしゃる。
見た目だけではない。心もまた優れてらっしゃるのだ。私なんかにも笑いかけて下さる。
ご主人様ももちろんお嬢様を可愛がり愛情を注がれているのだが、幾分、過保護が過ぎる嫌いがある。
お嬢様は外の世界を見たがっているのだ。」
「なるほど、その程度お安い御用です。」
悪魔はパチンと指を鳴らした。
同時に悪魔は消え去り、代わりにお嬢様がそこに座っている。
状況が分からないのだろう。唖然と周りをキョロキョロしていた。
「お嬢様…」
「私、さっきまでお母様といたのに。ここは?」
「行きましょう。この先に外の世界があります。」
私は足に力を入れ駆け出す。気付けば私の首輪をなくなっていた。
お嬢様がその後ろから4本の足を小刻みに動かしながら追って来る。