三上雅博のトーク
トーク情報三上雅博 見城徹見城徹 恋唄 吉本隆明
ひととひとを噛みあわせる曲芸師が 舞台にのせようとしても
おれは信じない
殺害はいつも舞台裏でおこなわれ 奈落をとおって墓地に
埋葬される けれど
おれを殺した男が舞台のうえで見得をきる
おれが殺した男は観客のなかで愉しくやっている
おれは舞台裏で じっと奈落の底を見守っている けれど
おれを苦しめた男は舞台のうえで倒れた演技をしてみせる。
おれが苦しめた男は観客のなかで父と母とのゆうに悲しく老いる
昨日のおれの愛は 今日は無言の非議と飢えにかわるのだ
そして世界はいつまでたってもおれの心の惨劇を映さない
殺逆と砲火を映している。
たとえ無数のひとが眼をこらしても おれの惨劇は視えないのだ
おれが手をふり上げて訴えても たれも聴こえない
おれが独りぽつちで語りつづけても
たれも録することができない
おれが愛することを忘れたら舞台にのせてくれ
おれが讃辞と富とを獲たら捨ててくれ
もしも おれが死んだら花輪をもって遺言をきいてくれ
もしも おれが死んだら世界は和解してくれ
もしも おれが革命といったらみんな武器をとってくれ三上雅博 見城徹見城徹 「涙が涸れる」 吉本 隆明
けふから ぼくらは泣かない
きのふまでのように もう世界は
うつくしくもなくなったから そうして
針のやうなことばをあつめて 悲惨な
出来ごとを生活の中からみつけ
つき刺す
ぼくらの生活があるかぎり 一本の針を
引出しからつかみだすように 心の傷から
ひとつの倫理を つまり
役立ちうる武器をつかみだす
しめっぽい貧民街の朽ちかかった軒端を
ひとりであるいは少女と
とほり過ぎるとき ぼくらは
残酷に ぼくらの武器を
かくしてゐる
胸のあひだからは 涙のかはりに
バラ色の私鉄の切符が
くちゃくちゃになってあらはれ
ぼくらはぼくらに または少女に
それを視せて とほくまで
ゆくんだと告げるのである
とほくまでゆくんだ ぼくらの好きな人々よ
嫉みと嫉みとをからみ合はせても
窮迫したぼくらの生活からは 名高い
恋の物語はうまれない
ぼくらはきみによって
きみはぼくらによって ただ
屈辱を組織できるだけだ
それをしなければならぬ