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ロングコートダディ堂前

7月12日(日) 注文した組立式の棚が届いた。 説明書を見てみると 「組立時、二人以上で作業をしてください。 言いましたからね。」 との注意書が。 一人でも出来そうなモノだったが、 言いましたからねという言葉が胸に突き刺さり 仕方なく誰か呼ぶことに。 後輩の酢村(すむら)に電話すると、 「え?はい、いけますけど…3時間くらい後ですけど大丈夫ですか?」 とのこと。 まあ、待つかと思い 「全然大丈夫」と言った。 3時間後に酢村が来てくれた。 酢村との棚組立がスタート。 サクサクと作業が進んでいく。 やはり一人でも出来たのではないだろうか。 作業の進み具合とは反比例するように 会話がまったく弾まない。 それもそのはず。 酢村とはお笑いライブのコーナーで一緒の青チームになっただけという関係だった。 ほとんど会話はしたことないし、どんな人間かも知らない。 連絡先は会社に教えてもらった。 それでもなぜ酢村に連絡したかというと コーナー終わりに酢村が僕に 「ありがとうございました!また棚とか作る時呼んでください!笑」と言ってきたからだ。 おそらくボケで言ったであろう酢村に対し僕は 「おま、棚って、なあ、お前、おう!おうて」 のようなツッコミしか出来なかったのを覚えている。 そして本当に棚を作る時に呼んだら面白いと思い、連絡したわけなのだが どうやら酢村はそのことを覚えていない様子。 その事を言うのはなんだか気恥ずかしく、 よくわからない沈黙が続いているという状況だ。 酢村も間違いなく 「なにこれ…?抱かれる?」とか思っているはずだ。 酢村も男だが 作業の最中、ふいに手が触れたりすると サッと手を引かれる。 このまま棚誘い込みおじさんのレッテルを貼られるのはまずいと思い、 思いきって言うことにした。 「あの、さ、覚えてない?あの棚の」 「え?」 「いや、コーナー終わりの、」 「え?なんのコーナーですか?」 「あの、先週の、生肉積み重ねていくやつ」 「え?生肉?ごめんなさいわかんないです」 「あれ?出てない?あれ?」 「いや、出てないすね」 「あれ、そっか、すまん」 話ながら思い出したが、そのコーナーで一緒になったのは酢村では無かった。 詐村(さむら)だった。 どうしよう。 本当に全く知らない後輩を呼んでしまった。 またしばらくの沈黙のあと、 僕は 「ごめん、ほんまごめんな、今なんてコンビ?」 と話しかけた。 訳がわからない。コンビ名も知らないやつを家に呼んで棚を一緒に作っている。 酢村は 「メタルラックです」 と言った。 なんかちょっとだけ奇跡起きた。 今作ってるのは別にメタルではないけど。 その後、棚は無事完成し ご飯代だけ渡してすぐ帰ってもらった。 夜、もしかしたら何か書いてるかもと 酢村のTwitterを検索して見てみると 「今日でかい仕事してきました。また近々報告させてもらうっすー」という言葉と 新幹線に乗っている写真が貼られていた。

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