#禍々しいかしら
連続3分小説 「禍々しいかしら」
第3話
「今いるこの次元はね、主にくつろぐために龍が帰ってくるための場所なの。」
荒野を歩きながらダッシュが話し出した。
私はとにかく眠れば様々な世界観の夢を見るのでそこは特に驚かなかった。というか、夢とはいえ体力使うことになる。これもきっと夢なのだ。
寝ていても夢を見ている間は起きてるのと変わらず頭も思考も神経もフル回転しているのだ。
「白麗(びゃくれい)という一体の龍が思いついたのよ。」
「何を?」
「もっとここでくつろぐ為のアイディア。」
「龍も疲れるの?」
「そこから聞くんだ….私もあなたと同じくらいの知覚しかないから龍族の疲れが私たちの疲れと同じなのかはないからよくわからないわ。
けれどあらゆる世界生れる願いを叶えるために存在する龍族は常にもっと楽しくもっと素晴らしい概念を創造するためにここへ帰ってくるらしいの。」
「ふむ。」
くつろぐ龍。。。
「そのチンケな頭の中の 龍がサングラスしてビーチで冷えたサングリアを飲むイメージ、消してくれないかしら」
「あ、見えちゃった?」
「あなたは私、今は分離してるけどこれだけ近くにいるとあなたの思考が流れてくるのよ。そのズレた感覚も承知してるけど。」
「へ〜い。」と返事はしたものの、勝手に浮かぶイメージは仕方ないよね。
「あ、待って、あなたは私って事は私もダッシュの考えを見ることもできるの?」
「それはどうかな、私はあなたの中の可能性の一つ、一部でしかないのよ。私がイメージできるならそれはすでにあなたがイメージしてる事だから。」
「うーん、よくわからん」
「そんなことより仕事よ。その白麗がこの荒野をもっと美しく作り上げてほしいそうなの。
あなたはその為に呼ばれたのよ」
「えーっえーっえーっ」そんなの、おっきなゼネコンとかデザイナーとか、とにかく関係者を呼ぶべきじゃない?
あ、前を歩くダッシュが振り向いた。また思考が流れたのか….。
「あなた、絵を描いたでしょ、緑の大地、湖、周りにはゴツゴツした岩山の絵」
私の頭の中に、遥か昔小学生の頃描いたクレヨン画が浮かんだ。
確かに描いた。
幼稚な絵だったけど、なにかが美術の先生の目に留まり、その地区のなんとか賞を取ったと聞いた。しかしその絵は手元に戻ってくる事はなかったので、記憶の奥底に沈んでしまい今まで思い出すこともなかった。
「ここをあのイメージに変えるのが今回のお役目よ。」
「無理よ、そんなの。一体どうやって….」
「ここはあなたの居る次元とは違うと言ったでしょ。大丈夫、もう同じ役目をもった仲間も来てるわ」
気づくと小さな尖った小石がゴロゴロしていた足元には見たこともない草が増えてきた。
脇に見える岩山の麓には木々も茂っている。
周りを見ているとなにもないはずの空間にオーラの柱がぽっぽっと立ち始め、その中心が次第に人や不思議な動物の形を取り始めた。
「仲間がやってきたわ、じゃ、私はあなたの代わりを演じてくるから。」と言ってダッシュは足元からゆらゆらと消えていった。
#つづく
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#第3話
第2話
『ふざけてないで早く行ってください』
彼女は言った。
???
どこへ?と訊こうと声を出す前に支えられている腕から天井方向へと放り投げられていた。
『わーっ!』
女の腕とは思えぬ力で投げ上げられる。目前に迫る天井!
と、天井に貼られたクロスの目が確認できるまで近づき辺りはいきなり暗転した。
投げ上げられたはずが、そのまま落下していることに気づいた。
どこまでも落ち続ける。
もう何が何だか分からないが、かなりの時間落ち続けたので返って冷静になってきた。
夢か?夢なのか?
どれくらい落ちたのだろうか、辺りは薄明かりにつつまれ、やがて浮遊感もなくなり、気づくと私は荒野に一人佇んでいた。
どうしよう、また変な夢の中に迷い込んだ?
そう、私はよく夢を見る。それは夢とも思えないような現実感というか、質量のようなものを持ち夢であることを全く感じさせない世界なのだ。
ただしその環境は現実ではあり得ない場所が多い。
今日みたいな荒涼とした岩場はまだ理解できるが、宇宙空間やそこに浮かぶ要塞、時代劇のような城の中、未来都市、重力の薄い森の中などということもある。
ほぼ毎晩違う時空に放り出される。
大抵そこには見知らぬ、しかし仲間という設定の人々が15〜30人ほどいる。時々は現実の友人知人も登場するが、その割合はかなり低い。
彼らを私は『夢の住人』と呼び、睦まじく付き合う。
そして環境は違っていてもいつもその仲間と何かを構築しているのだ。
システムだったり建築物だったり、何かわからない物を造っていることもある。
それはそれで面白いのだが、いつも何を造っているのかわからない。そしてそれは大抵楽なシナリオではないのだ。
あれこれ体を使わされたり、追いかけられたり、考えさせられたり。
そして冒険を経て目覚めた時はそこそこ疲れているのだ。
今朝も未来都市の大学の研究所のようなところで何かの実験をしている夢の途中で目覚めたのだ。
そう、目覚めたのだ。。。
なのにそこには現実にはあり得ないものがいた。
私そっくりの人。人?
人にしては生々しさが全くなかったけど。
瞳に輝きが無いというか….体温も低そう。
顔かたちを私そっくりに造ったのに魂を入れ損ねた私のバッタもん。そんな感じ。
まぁ力は強かったけど。
あれも夢かなぁ。
と、目の前にそれが現れた。
『わあっ!』
あまりに目の前に現れたので驚いて尻餅をつく。
『私はあなたが寝てる時にあなたの代わりに生きるために来ました。』
『はぁ?』
『これから全ての次元、全てのパラレルワールド、全ての時空で大規模な変容が始まります。グズグズしてはいられないのです。平和で愛と幸せに満ちた世界を一斉に作り上げなければならないのです。あなたの世界からはあなたが選ばれました。』
『はあ?』
『あなたが聞こうと思えばユニバースの声が聞こえるはずです。けれどずっと招集をかけていたのにあなたはなかなか覚醒しなかったので私が遣わされたのです。』
なんだか夢にしては壮大な話になってきた。
『もうここでの役目を持った人々は集まり始めています。今回は私が歩きながらご説明します』
よく見ると私のバッタもの….いや、アバターとでもいうのか?
はかなりぞんざいなつくりをしていた。
眉毛はあるのにまつ毛がない。いや、その前に瞳孔がない、無いというか黒目はただの黒い円でしかないのだ。
爪の質感も皮膚のままで….生物としてはかなり気持ち悪いぞ?
美少女とは言わないけれど、仮に私を名乗るならもっと正確に似せてくれや。
いや、そういうことじゃ無いのか?
なんだか変な夢だ。
そいつはくるりと踵を返すと私に背を向けスタスタと歩き始めた。
『ちょっと待ってよ』
私も後に続く。
こんな荒野じゃ他に頼るものもない。
あれ?彼女の後ろ姿の後頭部、斜め45度ほど頭上に何か浮いてる。
風船より小さいが、動く彼女に合わせてふわふわと糸でも付いているかのように黒い点がくっついていく。
そっと近づきその黒いものをエイっと掴もうとしたが、気配を感知して素早く振り返った彼女について向こう側へ回ってしまった。
『何してるんですっ』
『あ、いや、何かついてたから』
『これはあなたと私を識別する大切なものです。むやみに触らないでくださいっ』
あ、なんか彼女もこれがついてるの、やなんだ!
そか、ダッシュなんだ(≧∇≦)
私のバッタものにはダッシュが〜って、そんなのつけなくてもわかるでしょうが!!
再び歩き出した彼女の後をついて歩いていく。
こんな荒野で何を目印に歩いているんだろう。
時々ダッシュにちょっかい出しては嫌な顔をされつつ、私たちはしばらく歩いた。
#つづく
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#第2話
連続3分小説 「禍々しいかしら」第1話
目を覚ますとそいつは私を見下ろしていた。
長い黒髪に青白い顔。そいつは私と同じ顔をしていた。
もちろん私に双子の姉妹はいない。
「….また夢か」
もう窓の外は明るくなっていたが、私は寝返りを打って再び眠ろうとした。
夢から引っ張ってきたものは夢に返さなければならない。いつの頃からか私は密かにそんな掟を作っていた。
夢に返すには当然もう一度眠らなければならないのだが、寝返った先にはまたそいつの顔があった!
「うわぁっ!!」
人の形をしたエネルギーの塊、エンティティはたまに見かけたが、私のまわりではこんな自己主張の強いやつは珍しい。
しかも私を飛び超えて瞬時に空間移動したのに布団の上にはしっかりとそいつの質量を感じるのだ。
などと頭では冷静に状況を見極めてるのだが、体は素直に反射した。
つまり、瞬発的にそいつとは逆方向へと飛びのいたのだ。
寝ていてどう飛び退いたのか全く理解できないが、とにかく飛んだのだ。
当然「落ちる!!」と衝撃に身構えたが、何かに支えられ落下は免れた、というか、誰かにしっかりと抱きかかえられた。
咄嗟につぶった目を片目だけ開いた。
右目だけ。右目は現実を見る目なのだ。
その右目に映ったのは、先ほどより近い位置にあるもう一人の私の顔だった。
やつは….いや、彼女は私をしっかりとお姫様抱っこしていたのだった。
#つづく
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