信頼泥棒
仕事の進め方は怪獣人間に合わせてカスタマイズしていく。繰り返しになるが、定型化しない。機械的作業にしない。
常識的な仕事の枠組みに拘らず、相手に合わせていくことだ。王道はない。
しかし、外してはいけないことはある。その中の一つが仁義を通すことだ。
「いまの仕事には仁義なんて関係ない」と思っているのか軽視する人は多い。だが、怪獣人間にそれでは通用しない。なぜなら彼らはお金よりも「信用」という通貨で生きているからだ。
例えば、僕が仲良しの起業家がいたとする。あなたが何かの縁でその起業家に出会った時に「箕輪さんの知り合いなんだ。じゃあ今度なんか一緒にやろう」と仕事をすることになったとする。
いちいち「いま仕事であの人とやり取りしています」と報告する義理はないのだろうし、僕もそんなことをしろとは言わない。
それでも僕の耳には入ってくる。その起業家から「そう言えば箕輪くんの知り合いの○○さんと仕事してるよ」と聞かされたら、言ってくれればよかったのになとは思う。
僕の仕事相手に勝手に連絡をするな、ということではないが、そういう仕事のやり方をしていると少しづつ人間関係は狭くなっていく。
それは「信用」という通貨を借りていることに気付かないからだ。
お金よりも信用のほうが稼ぐのが難しい。
箕輪くんの知り合いなら仕事をお願いするよ」というのは、【箕輪の信用】という通貨を借りて仕事を得ている状況だ。
それなのに、何も言わないのは、簡単にいうと「信用泥棒」になってしまう。
こちらの信用貯金を勝手に引き出している。
別に何かを返せということではなく、「ありがとうございます、借りてます」と伝え、認識しておくことが大事なのだ。
そうすれば、なにかあったら助けてあげようと思うし、むしろ他の案件も紹介してあげようと思う。つまり自然に仕事が増えていく。
この「信用」という通貨の貸し借りを意識できるかが怪獣人間の世界では大切なのだ。
見過ごされがちなことだが、仁義を通すか通さないかで大きな差が生まれてしまう。怪獣人間クラスを相手にするときには、この細かさが決定的な差になることもある。
これは、外から見ているとよくわかるけれど、当人はまったく気付いていないことが多い。
「人間関係が大事だ」と言っている人でさえ、義理を欠くことを平気でしていたりする。
「普通に仕事やってよ」と僕が思うときの「普通」が、そういう人には理解できていないのだろう。
僕もこんなこと書きながらも、無意識に信頼泥棒をしてしまっていることがある。だからこそ常に意識しなければいけないのだ。
怪獣人間は繊細だ。誰よりも細かいところを気にする。何事にも自分ごとで執着を持って生きているから、記憶力も異常だ。
LINEのやり取りひとつでも、よく覚えている。あれだけ忙しい人たちだが、「返信がないまま終わっている」とか「お礼がない」といった細かな点をずっと覚えている。
それを直接言う人もいるし、覚えているだけで口にしない人もいる。前者なら「ごめんなさい」と謝るチャンスもあるが、後者にはそれすらない。あなたのことを「お礼しないヤツ」として一生、記憶する。
面倒くさいでしょう?わかる。古いと思うかもしれない。
でも、すごいチャラチャラしているように見えるユーチューバーでも長く残っている人は大体そういうところがマメだ。
怪獣らしい大胆で豪快な部分ばかり目につくだろうが、誤解されている点も多い。基本的には怪獣人間は、繊細で小さいことも気になるような人たちだ。それは、大きなプロジェクトも、些細な綻びから崩れていくことをよく知っているからだ。
ものすごく多くの人と関わっているのに、「そんなことまで気にするのか」と感じてしまうのかもしれない。
でもバイトの子からLINEの返信がないと気にしていたりする怪獣人間もいる。バイトの子にしたら、あんなすごい人に自分なんかがLINEしてはいけないと思ってることも多い。でも、めちゃくちゃ気にしてるのが、世界の知らない真実だ。
仕事のスケールが大きくなっても細かさは持続している。むしろ細かくなり続けてる。
相手の細かさには、細かさで対応しなければならない。義理人情の世界だ。ヤクザ映画みたいな世界だと思ってもいい。繊細にできない人は死ぬ。信用泥棒は生きていけない世界だ。
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