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吉田真悟
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No.655『三流シェフ』  三國清三著 (2022/12/15 幻冬舎) 2022/12/18(12/16読了) 料理は提供されて食べるまでの短い時間の儚いものだと思い込んでいたが、見て楽しみ、嗅いで楽しみ、食べて楽しみ、舌の記憶で楽しむ(今なら写真や動画でも記憶されるし)加えてシェフの生き様を想い、瞬間的に皿の宇宙を味わう奥の深い芸術だと思い直した。残念ながら旅行してまで食べに行く価値のある店や料理に縁は無いが。 『三流シェフ』という刺激的、逆説的なタイトルは、ミシュランの三ツ星に対する皮肉ととらまえた。天才であり師でもあるフレディ・ジラルデとアラン・シャペルが基準なら、全ての料理人は4流か5流以下かと思う。 三國さんと最も共感出来たのはウニは焼いた方が格段に美味いという事、最も共感出来なかったことは、海鞘(ホヤ)には全ての味の基本要素が含まれていて大好きだというところ。三陸生まれの私は海鞘が苦手である。 最後に話の出た、負い目に感じるシェフについてはYoutube動画でチラっと話をされていて想像がついた。あのSさんだと思う。 勝手に人の年表を作って思った事は、 この人はひと時もじっとしておられない、マグロの様に動き続ける、ものおじしない陽気な人だ。時に天狗になって、鼻っ柱を折られるが、人の嫌がる雑用を厭わずに人生の突破口を切り拓いてきた。そして、肝心な時に大事な人に出会う強運の持ち主でもある。生き方はとても真似出来ないけれど日本人としてのルーツを再確認して世界と戦ってきた姿勢に脱帽だ。 このタイミングの出版に感謝です。 C'est très bon! (とても美味しかった。) 【三國シェフの年表】 ◇1954年8月10日、北海道留萌支庁管内増毛町に生まれる ・父:正(漁師)、母:亮子の7人兄弟の3男(現在68歳) ・父は鰊の闇取引で大損し、家屋敷を失っていた。幼少期から家は貧しく、父の刺し網にかかった海産物を売り歩く手伝いをしていた   ※増毛(アイヌ語の:マシュケ)とは海鳥の来る場所という意味     鰊が信じられないほど獲れた時代には漁の権利が売買されていたらしい     なかにし礼著『兄弟』参照 ◇1969年中学を卒業後、札幌の「佐藤米穀店」に配達員として勤める ・鶴岡学園北海道栄養短期大学に併設の別科、調理専修夜間部へ1年半通う ・札幌グランドホテルの青木靖男(西洋料理部課長代理、32歳)に出会い社員食堂で働きホテル側の洗い場で皿洗いや鍋磨きを始める ・斉藤慶一(総料理長)に引き合わされ、特例で準社員として採用される ・「原生林」のメインダイニングへ配属され1年後にはソースの味を決めるストーブ前の担当に    この頃、料理長の代理でワゴンサービスも担当し、先輩達との軋轢が発生    先輩からの説教の中で、帝国ホテルの村上信夫(総料理長)を知る     ◇1971年、18歳の春に斉藤総料理長から紹介状を書いてもらい上京し村上さんの元へ ・オイルショックで不景気のためしかたなく洗い場のパートタイムで働きだす(三國さんの前に社員待ちが27名もいた) ・村上さんのTV収録時に手伝いを半ば強引に行い、先輩達から顰蹙を買う   (反骨心で、この頃から髭を生やしだす) ◇1974年8月10日(20歳) ・帝国ホテルの洗い場に入って2年経ち、パートから社員への道が突然閉ざされる ・12月までにホテル内18店舗の全ての鍋を磨き退職しようと決める ・10月に村上さんから声が掛かりスイス・ジュネーヴの日本大使館の公邸料理長に就任が決まる   ※村上さんは三國さんの洗い場での2年を良く見ていたらしい     村上信夫著『帝国ホテル厨房物語』より   (鍋洗い一つとっても要領とセンスが良かった。戦場のような厨房で次々に雑用をこなしながら、下ごしらえをやり、盛りつけを手伝い、味を盗む。ちょっとした雑用でも、シェフの仕事の段取りを見極め、いいタイミングでサポートする。それと、私が認めたのは、塩のふり方だった。厨房では俗に「塩ふり3年」と言うが、彼は素材に合わせて、じつに巧みに塩をふっていた。実際に料理を作らせてみなくても、それで腕前のほどが分かるのだ。) ◇1974年~ 3年9カ月に渡り、小木曽大使の料理長を務める ・着任早々、1週間で12人分のフルコースを用意(「リオン・ドール」で研修しアメリカ大使の好物のウサギ料理も添えて) ・ジュネーブ「山川」で日本料理の基礎を学ぶ(出汁の取り方、野菜のかつら剥きなど) ・夏休みの1か月間を利用してローザンヌ・クリシエ村の「ジラルデ」で雑用開始。天才シェフ、フレディ・ジラルデと出会い、スポンタネ(即興料理)に触れる ・大使の任期の終わりにホテルオークラの小野正吉総料理長への推薦状をもらうが返事をもらえず再び「ジラルデ」へ戻り正式雇用契約を結ぶ(労働ビザは1年半)   ※当時「ジラルデ」にはトロワグロ兄弟の弟、ピエールトロワグロの息子、ミシェル(18歳)が修行中であった   ※結局「ジラルデ」で公邸料理長の時代から5年間も修行を行う ◇1980年~、フランスへ渡り約2年間、名店で武者修行開始   ※最終的に三ツ星シェフのサティフィカ(人物証明、推薦状)を5通も保持する   ※以下修行順は不明 ・トロワグロ兄弟の「トロワグロ」(三ツ星レストラン、客席数100席ほど)でデシャップ(各部門から上がってくる料理を皿に盛りつける担当)を任される ・ポール・エーベルランの「オーベルジュ・ドゥ・リル」 ・ルイ・ウーティエの「ロアジス」(カンヌ近郊にある)この頃の三國の月収は5000フランから8000フランあったが、自己投資のためいつも文無しに、最初の給料の入る1か月をコートダジュール海岸で野宿で過ごす ・ロジェ・ヴェルジェの「ル・ムーラン・ド・ムージャン」 ・ジャン・ドラベーヌ(国宝級のシェフ)の「カメリア」(二つ星)でソーシエ(ソース作り)を担当する ・アラン・シャペルの「アラン・シャペル」(三ツ星レストラン、リヨン郊外にある)   「ジラルデ」を辞める時、ジラルデ本人がシャペルに直接電話で依頼し、3年後にやっと欠員が出たため採用に   「ロアジス」で働いていた日本人の同僚と偶然出会い、シャペルからの手紙を受け取った(なんという偶然)   店ではデシャップを任される ・シャペルから盛りつけた料理に対して「セ・パ・ラフィネ」(洗練されていない)と言われ自分のルーツが日本にあることに気が付く   ※天才の料理を真似た優等生の料理から、日本人として、自分にしか作れないフランス料理を目指すことに     結局「アラン・シャペル」には1年半いた模様 ◇1982年12月に8年の料理修行を終えて帰国(28歳) ◇1983年3月、市ヶ谷の「ビストロ・サカナザ」で雇われシェフに   ※この頃、角川書店の編集者だった見城先生と三國シェフは知り合う   ※店は「ジラルデ」スタイルで三國さんは悪魔になった     その後、店の経営についてオーナーとすれ違い、1年8カ月で店を辞める ◇1985年3月に四ッ谷に「オテル・ドゥ・ミクニ」を開店(自分自身を担保に全て借金で、厨房6名、ホール12名の計18名、40席)     開店後、半年は客が入らない状態に ・1986年「皿の上に、僕がある。」を出版。5日で120皿を作った料理写真集。客が入らなかった店が何カ月先まで予約が埋まる ・開店から5年が過ぎたころ、アラン・シャペルが来店しゲストブックにメッセージを記入   ジャポニゼ:日本の食材や食文化を取り入れて、フランス料理の可能性を広げたことを絶賛する   この2か月後にシャペルは亡くなるのだが「セ・パ・ラフィネ」に対する答え合わせが無事済む ・各国の高級ホテルでミクニ・フェスティバルが大成功 ・アラン・シャペル時代に一緒に働いたアラン・デュカス(三ツ星)やミッシェル・トロワグロ(三ツ星)とコラボしてシェフを務める ・2007年にミシュランガイド東京版が発刊するも「オテル・ドゥ・ミクニ」の名前は無かった(星無し) ・店を始めた頃は「ジラルデ」スタイルの前衛的料理であったが、40歳を過ぎた頃から「シャペル」スタイルに変更し後継者の育成に力を入れる   ◇2015年 フランス共和国レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受章(日本人初)   ※推薦人:ポール・ボキューズ、ジョエル・ロブション、アラン・デュカス ◇2022年12月に「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉店予定   ※現時点で直営店、プロデュース店を含め13店舗を経営し、従業員は165名 ◇2024年?~ 「オテル・ドゥ・ミクニ」跡地にカウンター8席のみの「三國」をオープン予定 【登場する用語】 <シェフの階級> ・シェフ・ド・キュイジーヌ(総料理長) ・スーシェフ・ド・キュイジーヌ(副料理長) ・シェフ・ド・パルティ(部門シェフ)     アントルメティエ(スープ前菜卵料理担当)     ポワソニエ(魚料理担当)     ソーシエ(ソース作り担当)     デシャップ(各部門から上がってくる料理を皿に盛りつける担当)     ・アプランティ(料理を志す若者) <火の入れ方> ・ポワレ(カリッと焼く) ・グリル(網焼き) ・ロティール(ロースト。オーブン焼き) ・ポシェ(茹でる) <サティフィカ> ・シェフが店を辞める従業員対して書く人物の証明書、推薦状 <フランス料理の師匠筋> ・オーギュスト・エスコフィエ:フランス料理の基礎を作った人 ・フェルナン・ポアン:エスコフィエから50年後に登場。店は「ラ・ピラミッド」     弟子には、ポール・ボキューズ、トロアグロ兄弟、ロジェ・ベルジェ、アラン・シャペルらが Wikipedia 三國清三 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%9C%8B%E6%B8%85%E4%B8%89

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千冊回峰行中!
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  • 吉田真悟
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    No.733 
    『八日目の蝉』角田光代著
    (2007/3/25 中央公論新社)

    2024/05/14 
    (Amazon Audibleで3/19視聴)

    不倫相手の子供を衝動的に盗み出し、数年も連れ回す主人公に徐々に情が移っていくが、いつ捕まるのかと緊張感がずっと続いた。

    母親ごっごに付き合わされるが、決して不快ではない。子を守る母親として主人公の「希和子」になりきり、行く先々で世話してくれる他人の人情に触れ、逃亡生活をハラハラしながら追っかけて、最後は誘拐が発覚して捕まってしまい一旦ホットするも、今度は「薫」(子供)の目線でその後の第二章が始まる。希和子と同じような不倫をしてしまう薫に、またかといった諦めを感じる。

    希和子と薫の最後のすれ違いについても、やきもきしつつ諦めてしまう。
    そこで出会ったなら、お互いを十分に理解できただろうかな?

  • 吉田真悟
    吉田真悟

    No.734
    『キングスマン ファースト・エージェント』
    『キングスマン』
    『キングスマン ゴールデン・サークル』
    3作品、3/20に観覧終了(Amazon Prime Video)

    本気で作った紳士の国の映画だった。
    何度も観たが、痛快で面白い。金をかけているのがよくわかる。
    そして人が簡単に死ぬため罪悪感がない。そこが良い。

    「ファーストエージェント」
    1914年当時(どこまでが本当か私にはわからないが)
    凶悪な「羊飼い」との死闘を終えたオックスフォード公が、
    英国国王ジョージ5世の協力の下、高級テーラー内に国家権力から独立した諜報機関「Kingsman」を作る話。

    ・イギリス国王のジョージ5世、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世、ロシア皇帝のニコライ2世がいとこ同士だったとは知らなかった。
    ・「羊飼い」を名乗る謎の男が世界を混乱させるべく秘密会議を開いていたが、ロシアの怪僧ラスプーチン、女スパイマタ・ハリ、ロシアの革命家レーニンといったそうそうたる歴史上の人物が登場する。後に世界を震撼させるキーパーソンたち。なのでなかなか、スケールの大きい時代がかったスパイアクション映画となっている。

    「キングスマン」
    キングスマンのメンバーの一人が冒頭で死んでしまい、その後任を危険な試験で選抜する。かつて自分の父がメンバーだったエグジーがもう一人の女性と選ばれるが、スマホを使い世界中を暴力的に洗脳する悪と戦うといった超アクション大作である。杖や傘などの独特の武器や防御アイテムが面白い。エグジーの成長と義理の父親との対決に鳥肌がたった。少年が一人前の大人にいきなりなってしまい、まぶしいのである。

    「ゴールデン・サークル」
    麻薬密売組織ゴールデン・サークルの女ボスとの闘いがメインのストーリィ。
    麻薬に仕込んだ毒物により世界中がパニックになるが、すんでところで解毒剤を手に入れて世界を救うというお話。
    米国諜報組織ステイツマンとキングスマンの関係(バーボンやテキーラって太陽に吠えろか?)が近いのか遠いのかいまいちわからなかった。親しい仲間の死がさらっとしていて心に沁みた。

    新作が出たら必ず観るよ。

  • 吉田真悟
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    No.735
    『変な家』 雨穴著(2021/07/22 飛鳥新社)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/22に視聴) 
    ホラー・サスペンス。
    緻密にデザインされたディテールは凄いの一言。
    本当に怖くなり鳥肌が何度も立ったが、引き寄せられて先を読みたくなる。
    中毒性がある本である。夜に一人では読まない方が良いな。おしっこ漏らしそうだから、映画は観ない(^^)/

  • 吉田真悟
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    No.736
    『変な絵』 雨穴著
    (2022/10/20 双葉社)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/22に視聴) 
    ばらばらの不気味な話がどう合体していくのか?
    結末を知りたいのだが、恐ろしいし、不気味だし、躊躇しながら先を読んでしまう。一体誰が主人公?犯人?被害者?いびつな絵の意味が分かってくると恐怖が何倍にも膨れ上がる。
    最終章でやっと最初の絵の意味が分かり、主人公が分かって全部つながった。
    どえれー怖かった。
    夏にぴったりの本。

  • 吉田真悟
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    No.737
    『吉原手引草』 
    松井今朝子著
    (2007/3/1 幻冬舎)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/23に視聴) 
    身請けが決まった遊女・葛城が、幸福の絶頂に突然失踪する。多くの人のインタビュー(3人称多視点)でその事実が明らかになっていく。
    どうも、仇討ちが隠れているし、人情噺でもある。
    よくある形式だが、書くのは大変であろうと思う。
    いきさつを忘れてこの文章を今、書いている。はぁ。

    第137回直木賞受賞作と聞いて気になって古本屋で買った。大変面白かった。

  • 吉田真悟
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    No.738
    『夜と霧』
    ヴィクトール・E・フランクル著(2002/11/06 みすず書房)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/24に視聴) 
    極限の恐怖でも生還することが分かっていたからなんとか読めたがきつい本だ。
    人間の尊厳やプライドが粉々になったとき、人は何をしだすのか?
    人類全体の負の貴重な体験記録である。子孫に語り継がなくてはならないと思った。
    今日石で追われた人達が明日は別の民を蹂躙する。
    今、ガザで起きていることはこの本とは全く関係ないと思おう。人類の進歩はいつまで止まったままだろう。共通の敵が現れない限り、その連鎖は繰り返すのだろうなぁ。愚かなり

  • 吉田真悟
    吉田真悟
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    No.739
    『読書という荒野』
    見城徹著
    (2020/04/03 幻冬舎文庫) 

    2024/07/02 (Amazon Audibleで3/25に視聴) 
    読んだはずなのに覚えていないことだらけで愕然とする。見城先生のお祖父様は森鴎外の友人で高名な医者だったそうだ。今更知る驚愕の事実。多分忘れただけなのだが。

    いったん読むと、とんでもなく読みたい本が増えてしまう。いや、前回もピックアップしたはずだが、怠慢である。『罪と罰』、『邪宗門』から読んでみるか。

    そうすると『仮面の告白』、『豊穣の海』、『金閣寺』などはいつになったら読めるのだろうかな。細かく読書計画を立てなくてはならないなぁ。早く読めよ自分!

    読書が荒野になる日まで精進しよう